獣医学部生執筆
人間を含む全ての動物の体は細胞によって作られていて、当然皮膚や心臓、脳や骨なども細胞でできています。そして、細胞が傷ついたり古くなってしまった時は新しい細胞が増殖し、ダメな細胞と置き換わることによって動物の体はいつも健康な状態でいられるわけです。
(健康な状態の細胞のイメージ)
しかし、細胞の遺伝子になんらかのエラーが発生すると勝手にどんどん増殖してしまい、やがてエラーの起きた細胞の塊が出来てしまいます。これを腫瘍(しゅよう)といいます。腫瘍には「良性」のものと、「悪性」のものがあり、「悪性」の腫瘍が癌(がん)と呼ばれます。
(勝手に増殖するがん細胞のイメージ)
癌には「乳腺腫瘍」「メラノーマ(ほくろの癌)」「悪性リンパ腫」「肥満細胞腫」など様々な種類があり、原因も「肥満」「ストレス」「ホルモン異常」「遺伝子疾患」「ウイルス」「食生活」「化学物質」など様々で、色々な要因の積み重ねによって癌になることも多いので、具体的にどの原因によって癌になったかを特定することは難しいと言われています。
また、癌には色々な種類がありますが犬の種類によってなりやすい癌も存在します。
例えばパグ、ブルドッグ、ボクサー、シーズーなどの鼻が短い犬はタバコの煙の影響を強く受けるため肺癌になりやすいと言われていますし、コリーやシェットランドシープドックは日光の刺激によって起きる皮膚炎が皮膚癌の原因となっている可能性が高く、セントバーナードやグレートデン、秋田犬などの大型犬は骨肉種になってしまう可能性が高いと言われています。
様々な原因によって発生する癌ですが、症状としては「しこり」「腫れ」「傷が治らない」「慢性的な下痢や嘔吐」「おしっこが出にくい」「グッタリする」「咳や鼻水」「体重の減少」などがあります。元気が無かったり傷が治りにくかったりしても「もう老犬だから」と決めつけてしまわずに症状が少しでも悪化してきたらなるべく早く病院で受診させてあげて下さい。
もしも癌になってしまった場合の治療法としては「手術による摘出」「放射線治療」「抗癌剤治療」などがあります。
「手術による摘出」は癌を直接切って取り除く治療のことで皮膚癌や塊を作る癌には有効ですが、血液の癌などには効果はありません。また犬の体へ負担が掛かるため弱った犬へは行うことができず、また癌の転移が進んでいると全て取り除ききることは難しくなります。
「放射線治療」は強めの放射線を癌細胞に当てることによってDNAを破壊して、癌を殺す治療のことで、骨髄やリンパ球、小腸などの癌に有効です。しかし放射線は癌の周りの健康な細胞も傷つけてしまうため、筋肉や腎臓、肝臓、神経の癌などの「周りの細胞が死んでしまうと後遺症が残りやすい部位」には放射線治療を行うことはできません。
「抗癌剤治療」は細胞の増殖を妨げる薬を投与することで、増殖が盛んな癌細胞に大きくダメージを与えます。しかし正常な細胞の増殖も妨げてしまうため正常な細胞もダメージを受けてしまいます。また抗癌剤治療によって癌が完治する可能性はとても低いと言われています。
※この記事は麻布大学獣医学部のご協力により作成いたしました。
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