獣医師執筆
森のいぬねこ病院グループ院長
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属
西原 克明(にしはら かつあき)先生
寒い冬が明け、春は犬にとっても外の散歩ができるようになったりと、何かと活動的になる季節です。しかし、犬の病気や健康面では、春には特に注意していただきたことがたくさんあります。ここでは、春に気をつけたい犬の予防や病気についてお伝えします。
犬が健康に過ごすために絶対に欠かせないのが、定期的な予防接種や予防薬の投与です。その中でも、
◆狂犬病予防接種
◆フィラリア予防
◆ノミとマダニの予防
は、春の季節には必須の予防になります。
毎年4月(もしくは早い地域だと3月)になると各市町村の保健所から、狂犬病予防接種のお知らせが届きます。生後90日を過ぎた犬は、狂犬病予防法という法律に基づいて、狂犬病予防接種を受ける義務があります。ですので、保健所が案内する会場や動物病院で、必ず接種するようにしてください。
中には、「狂犬病は日本では半世紀にわたり発生のない病気だから、予防接種は不要」という考えの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、同じく狂犬病の発生がないとされていた台湾では、2013年に突如、狂犬病が発生しています。日本も同じように突然発生する可能性は否定できませんので、予防接種は必ず受けるようにしましょう。
また、病気療養中などの理由で、予防接種が難しい場合は、時期を遅らせて受けることも可能ですし、重度な病気で獣医師が「予防接種は危険」と判断した場合は、狂犬病予防接種猶予証明書を発行し、その年度の予防接種を免除することもできますので、狂犬病予防接種に不安のある方は、必ず動物病院に相談するようにしてください。
フィラリアは、蚊に刺されて感染する寄生虫病です。ですので、蚊が発生する時期、まさに春になったらフィラリア予防を始めましょう(地域によっては、もっと早い時期、あるいは通年での予防が必要です)。
フィラリア症は心臓に寄生する寄生虫病で、症状が進行すると、お腹や肺に水が溜まり、非常に苦しい症状を持ちながら死に至ることも多い、非常に厄介な病気です。しかし、毎月の予防薬や年に1回の注射薬で確実に予防することができますので、必ず予防されることをお勧めします。
ちなみに2011年の東日本大震災では、多くの被災動物が保護されましたが、ある調査では保護された被災犬の3割以上がフィラリア症にかかっていました。狂犬病と異なり、フィラリア症は今でも多く見られる病気ですので、しっかりと予防するようにしてください。
マダニは春先に犬への寄生が多く見られるようになります。特にまぶたや耳の先など、皮膚の中でも柔らかい場所に寄生し、犬の血液を吸ってどんどん大きくなります
マダニの寄生自体も問題ですが、近年は、マダニから感染する様々な病気が問題視されており、さらには、マダニから人に感染する病気もあるため、人獣共通感染症の点からも犬のマダニ予防は非常に大切な予防と言えます。
マダニ予防は、首に垂らすタイプの滴下薬タイプと飲み薬タイプがありますが、どちらも効果はほとんど同じですので、使いやすい方を選んでいただければと思います。また、ホームセンターやペットショップなどで販売されているものもありますが、それらは効果の検証が不十分ですので、必ず動物病院で処方された予防薬を使うようにしてください。
春は犬にとっては予防の季節でもありますが、実は春に多く見られる病気もあります。ここでは、
◆アレルギー
◆換毛期の皮膚炎
◆熱中症
◆子宮蓄膿症
についてお伝えします。
春になると人間のアレルギーで一番多く見られるのがスギ花粉による花粉症です。実は犬にも同じようにスギ花粉によって目のかゆみなどのアレルギー症状が見られることがあります。スギ花粉による目のかゆみは、人間ほど多くはないのですが、実際に犬でも見られることがあります。さらには、そのほかの草木に対してもアレルギーを持つ犬も多く、散歩で草むらに入ったりすると、その後から手足やお腹周辺、顔まわりを痒がるようになります。
犬のアレルギーは、花粉や草木だけでなく、ハウスダストや食べ物など、人間と同じような原因物質があり、しかもほとんどの犬は、複数の原因物質を持っています。ですので、中には春など季節に関係なく、アレルギー症状を示す犬もいますが、そんな犬でも、特に春先に症状が悪化するケースも多く見られます。
アレルギーの治療は、症状がひどい時にはしっかりと治療薬を使うことをお勧めします。中にはステロイドを使うケースもありますが、ステロイドは使い方を間違えなければ、決して危険な薬ではありません。さらには最近は、ステロイドほどの副作用もなく、それなりに効果のある薬もありますので、そういったものを使うのもおすすめです。
しかし、これらはあくまで対症療法ですので、かゆみなどの症状は楽になりますが、原因にアプローチしているわけではありませんので、それだけでは薬を手放せなくなってしまいます。
そこで、食事療法やサプリメント、スキンケア用品などを使って、なるべく薬に頼らない体づくりをすることも重要です。特にアガリクスのような免疫力を高めるサプリメントは、長く飲み続けることで、アレルギーに対しても役立つことがありますので、個人的にはお勧めしています。
ほとんどの犬は春と秋に換毛期を迎えます。換毛期には毛がたくさん抜けますが、中にはそれが原因となって皮膚炎を起こしてしまうケースがあります。換毛期には、毛と一緒に毛穴からたくさんのフケも出てきます。
しかし、フケがたまりすぎるとフケの中の油脂成分が酸化してしまい、酸化した油脂が皮膚にダメージを与えてしまいます。ですので、特にデリケートな皮膚を持つ犬は、換毛期に皮膚炎を起こしやすくなります。
これらの皮膚炎はほとんどが部分的ですので、塗り薬で治療することがほとんどです。また、ほかの場所でも皮膚炎が起こらないように、炎症のある皮膚に注意しながら、全身を洗い、余分なフケを落としてしまうことも重要です。
これらの皮膚炎にならないようにするには、換毛期にこまめなブラッシングをすることをお勧めします。ブラッシングには様々なグッズがありますが、いわゆるスリッカーと呼ばれるタイプは、表面上の毛しかとかせないことも多いため注意が必要です。
また「ファーミネーター」に代表されるブラッシング用品は、非常に効率よく抜け毛を処理してくれますが、流行り使い方を間違えると皮膚を傷つけてしまうこともありますのでやはり注意が必要です。ブラッシングが不安な方は、トリミングショップを利用すると良いでしょう。
熱中症といえば、夏場の暑い時期に見られる病気だと思われがちですが、実は春先でも熱中症のような症状にかかる犬が意外と多く、注意が必要です。
春先は、さすがに夏場ほど高温になることはありませんが、寒暖の差が大きく、それが犬にとって負担になるようで、特に心臓の病気や呼吸器系(気管や肺)の病気を患っている犬では、熱中症のような症状にかかってしまうことがあります。
朝晩の冷えた時間帯でのお散歩から、暖房+春の陽射しで暖かくなりがちなお家に入ることで、温度変化に体が対応しづらくなり、呼吸や心臓や血圧と行った循環に大きな負担がかかります。
そのような状態になると、犬は呼吸が早くなったり、パンティングと呼ばれる「ハァッハァッハァッ」というような荒い呼吸をするようになります。さらにひどくなると、湿った咳をしたり、ぐったりとしてきます。このような場合は、少しでも異常を感じた段階で、動物病院に電話して指示を仰ぐことをお勧めします。
夏場の典型的な熱中症であれば、応急処置として体を冷やすことが勧められますが、この時期の症状は、必ずしも体温が上がっているとは限らないため、より適切な処置をするためにも、迅速に動物病院と連絡を取るようにしましょう。
犬の子宮蓄膿症は名前の通り、子宮の中に膿が溜まってしまう病気です。これは未避妊の雌犬に見られ、特に、一度も出産経験のない高齢の雌犬に多く見られます。
犬の子宮蓄膿症は、卵巣ホルモンが関係しており、通常の発情が終わった後に、子宮内膜炎が起こり、そこから子宮蓄膿症に発展してしまうと考えられています。ですので、春と秋の2回発情する犬では、その発情後に発症することがほとんどのため、春先で多く見られる病気と言えます。
子宮蓄膿症を患った犬では、陰部から通常見られるおりものとは異なり、膿混じりのような出血が見られます。さらには一般的な症状として、お水をたくさん飲んで尿もたくさんするようになったり、発熱、元気食欲の低下が見られるようになります。
子宮蓄膿症の治療は、手術による子宮と卵巣の摘出が原則です。薬で症状を緩和させることもできますが、非常に再発率の高い病気ですので、長い目で見たときには、手術のメリットが大きくなります。
また、健康な犬では避妊手術を行うことで、子宮蓄膿症を予防することができます。
犬の健康を守るため、春には予防や病気対策など、色々とやることが盛り沢山です。ぜひかかりつけの動物病院の先生と相談しながら、確実に対策してあげてください。
執筆者
西原 克明(にしはら かつあき)先生
森のいぬねこ病院グループ院長
帯広畜産大学 獣医学科卒業
略歴
北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。
所属学会
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会
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