執筆者
西原 克明(にしはら かつあき)先生
森のいぬねこ病院グループ院長
帯広畜産大学 獣医学科卒業
略歴
北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。
所属学会
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会
獣医師執筆
森のいぬねこ病院グループ院長
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属
西原 克明(にしはら かつあき)先生
夏になると、猫も人間と同じように暑さによって、様々な体調の変化が生じます。
特に慢性腎臓病など持病を抱えている猫はより暑さが負担になることも多く、さらには健康な猫でも、日常生活での管理によっては、体調を崩してしまうこともあります。そこで今回は、夏に多い猫のトラブルとその対策についてお伝えします。
熱中症とは、外からの熱によって体温が異常に上昇し、様々な症状が生じ、場合によっては命に関わる状況に陥ることもある非常に危険な状態です。動物が高体温になるのは、自分自身の発熱によるものもありますが、熱中症は自分の発熱による高体温は含まれません。
通常は、気温が高い場所に長時間居ることで、熱中症になってしまいますが、稀に甲状腺機能亢進症の猫が過度に運動した場合など、代謝異常によっても熱中症が発症することがあります。
猫の場合、犬のように短頭種で発生が多いといった、猫種による差は今のところわかっていません。しかし、人間と違って、猫は汗による体温調節が苦手な動物ですので、体温が上がってしまうとなかなか下がりづらく、熱中症を発症しやすくなってしまいます。
猫の熱中症は、多くが室内で発生しています。猫は割と部屋の中でも狭いところを好み、大抵はそういった場所で寝ていることが多いのですが、部屋の中でも、狭い場所は風通しが悪く、部屋全体の気温が高いときには、なかなか気温が下がらず、猫にとっても大きな負担となります。
特に暑い日にも関わらず、飼い主の方が「猫の居場所は日陰だから大丈夫だろう」と思って油断していると、気づかないうちに猫の体温が上がってしまって、熱中症になってしまうことがあります。また、キャリーケースなど狭くて風通しの悪い空間でも、熱中症を発症しやすくなりますので注意してください。
もちろん、外に出てしまう猫の場合は、夏場の直射日光を長時間浴びてしまったり、地面からの放射熱によって、熱中症にかかるリスクは非常に高いと言えます。
また、熱中症は気温だけでなく、湿度が高い場合も要注意です。猫は汗をほとんどかかず、体温調節は主に呼吸で行います。しかし湿度が高いと呼吸による熱交換もうまくできないため、なかなか体温を下げることができなくなってしまいます。そのため、湿度が高い梅雨時では、気温がそこまで高くなくても、ちょっとしたことで熱中症を発症してしまいます。
猫の熱中症では、猫に隠れた病気がある場合、さらに病状が悪化してしまうリスクが高くなります。
アメリカンショートヘアやメインクーンなどに比較的多く見られる肥大型心筋症などの心臓の病気は、熱中症によって体温が上がってしまうと、心臓に大きな負担がかかり、非常に危険な状態に陥ってしまいます。
また、高齢の猫に多く見られる慢性腎臓病(以前は慢性腎不全と呼ばれていました)では、体から水分がどんどん失われるため、脱水を起こしやすくなります。熱中症では、体温が上がってしまうことで、水分もより多く代謝されますので、やはり脱水傾向になってしまいます。
そのため、慢性腎臓病を持つ猫が熱中症を起こしてしまうと、より重度な脱水状態となり、熱中症のダメージだけでなく、腎臓自体にも大きなダメージが残ってしまい、やはり命の危険もある非常に危ない状態になってしまいます。
さらには肥満の猫も注意が必要です。肥満の猫では、熱中症になると容易に血液の流れが悪化し、血圧や心臓に負担がかかり、わずかな体温上昇でも熱中症を発症してしまいます。また、肥満は病気のリスクが高いだけでなく、現在の医療では『肥満症』として、肥満自体が病気として扱われていますので注意が必要です。
そのほかにも、喉や気管などの呼吸器系の病気やてんかんなど神経系の病気でも熱中症が発症しやすい、あるいは重症化しやすくなってしまいます。
猫が暑い部屋にいて、呼吸が早くなっていたり、舌を出している状態の時は、熱中症が疑われますので、なるべく早い対処が必要です。また、よだれが多く出ている時、ぐったりしている時にも熱中症にかかっていないか注意が必要です。さらには熱中症では吐いたり下痢したりといった症状が見られることもあります。
さらには、重症になると、けいれん発作や意識がなくなる昏睡状態に陥ってしまったり、尿が全く出なくなったりします。
ほとんどの熱中症では、体温が上がっていますので、猫の体温が41℃を超えている時は、熱中症として緊急的な対応をしてください。ただし、猫の体温は通常はお尻で測定しますので、とても嫌がる猫では、体温測定自体が負担になってしまったり、場合によっては腸を傷つけてしまうこともありますので、無理な測定はせず、熱中症が心配場合は、動物病院への受診を急ぐようにしてください。
猫の熱中症を疑う場合は、なるべく早く動物病院を受診するようにしましょう。熱中症の場合は一刻を争う状態ですので、かかりつけが休診の場合でも様子を見たりせず、救急動物病院を受診してください。
動物病院を受診するまでの間は、電話などで動物病院の指示に従うようにしましょう。
動物病院と連絡が取れない時、体温が明らかに41℃を超えている場合は、体を冷やすようにしてください。おとなしい猫の場合は、お水で体を濡らして体温を下げることもできますが、お水が苦手な猫も多いので、嫌がりそうな場合は、お水を直接かけたりせず、十分に濡らしたタオルで体を覆い、うちわなどで風を当ててあげると良いでしょう。
ただし、氷など冷たすぎるものは、逆に体温を下げづらくしてしまいますので、使わないようにしてください。体を冷やしている間は、こまめに体温を測定し、体温が39℃台になったら、冷やすことをストップしてください(低体温症を防ぐためです)。
自己判断で救急処置をしてしまうと、逆に猫の命を危険にするリスクもあるため、なるべく動物病院と連絡を取るようにしてください。
このように熱中症は、発症してしまうと非常に危険な状態になりますので、日常生活の中での予防対策がより重要です。
まず、外に出てしまう猫は、熱中症だけでなく様々なアクシデントを防ぐためにも、できるだけ室内で暮らすように工夫するようにしてください。
室内も、気温と湿度に注意し、少しでも高温、高湿度になりそうな時はエアコンで、室内の環境を調えるようにしてください。特に真夏の暑い時期のエアコンは必須ですが、梅雨時や初秋などまだ暑さや湿気が残る時期は、案外熱中症になるケースが多いので、そういった時期も注意するようにしてください。
また、病気を隠し持っている猫では、ちょっとした気温や湿度の上昇で、簡単に熱中症を発症してしまいますので、定期的な健康診断などで、隠れた病気がないかチェックするようにしてください。また、すでに病気を持っている猫では、コンディションを維持するためにも、しっかりと治療を続けることが大切です。
夏は猫も熱中症や衛生上の問題が起こりやすくなります。特に真夏だけでなく、梅雨時期や初夏、初秋など、気温がそこまで上がらない時期も注意が必要です。
執筆者
西原 克明(にしはら かつあき)先生
森のいぬねこ病院グループ院長
帯広畜産大学 獣医学科卒業
略歴
北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。
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