獣医師執筆
森のいぬねこ病院グループ院長
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属
西原 克明(にしはら かつあき)先生
夏や冬のように極端に気温が変化する時期とは異なり、春や秋は気候も穏やかで、猫にとっても過ごしやすい時期と言えます。しかし、秋にも注意していただきたい病気などがあります。今回は秋に気をつけたい猫の病気対策についてお伝えします。
マダニ感染は、春から秋にかけて(地方によっては冬の初めや終わり頃も注意が必要)見られる外部寄生虫感染症です。一般的には、マダニが猫に寄生すると、猫の皮膚から血液を吸って、小豆大ほどの大きさになるイメージをお持ちの方が多いと思います。しかし、秋のマダニ感染は、実はそういった大きなダニではなく、ゴマ粒もしくはそれよりも小さいダニの感染が多く見られます。
マダニは春から夏にかけて、猫をはじめとする動物の血液を吸って大きくなります。その後、動物から離れて散乱し、小さな幼ダニがたくさん生まれます。その幼ダニも再び猫の皮膚に寄生するのですが、秋に感染するマダニはこの幼ダニの感染が多く見られるのです。
幼ダニの感染は、幼ダニ自体が非常に小さいので、飼い主の方が気づかないことも多いです。猫がやたらと足を気にして舐めたり、かじったりしている仕草に飼い主の方が気づき、そしてよくよく足の毛をかき分け、皮膚を見てみると、小さな幼ダニがたくさんウヨウヨといるのを見つける、こういったケースがほとんどです。夏を過ぎて涼しくなった頃に、猫が足を気にしているときは、皮膚をチェックしてマダニがいるかどうかを確認するようにしましょう。
マダニの感染が見られた場合には、速やかに動物病院を受診して、駆虫薬を処方してもらってください。幼ダニは本当に細かく小さいので、全てを見つけて除去することは非常に困難です。
マダニの駆虫薬は背中に垂らす滴下タイプと飲み薬タイプがあります。効果はどちらも同じですので、使いやすい方を選ぶと良いでしょう。ちなみにマダニの駆虫薬は、普段は予防薬として使用することもできます。つまり、定期的に予防している方は、同じ薬を駆虫薬として使用することもできます。日常的に予防薬としても使用できるお薬ですので、安全性の高いお薬だと言えます。
ただし、ホームセンターなどで販売されている予防薬は、その効果が不十分なものが多く、実際に私の動物病院でも、市販の予防薬を使用していても、マダニ感染を起こすケースを経験していますので、必ず動物病院で処方されるものを使用するようにしてください。
前述のように、マダニの駆虫薬を予防薬として使用することができます。マダニ感染は、マダニ自体が感染するリスクだけでなく、マダニが媒介する様々な微生物感染も問題になります。さらには、マダニ感染は、猫だけでなく、人間にも感染する病気(人獣共通感染症)を媒介するリスクを持っていますので、人間が安全に暮らすためにも、マダニ予防は必ず実施することをお勧めします。
さらには、猫自身を完全室内飼育している場合は、さらにマダニ自体の接触リスクを下げることができます。猫が外に出る場合、マダニ感染だけでなく、ウイルスや細菌感染、猫同士の喧嘩、交通事故など猫にとって危険がたくさんありますので、できる限り室内で暮らすように、工夫してあげることも大切だと思います。
猫の夏対策でもお伝えしました『熱中症』。実は夏だけでなく、秋の時期でも注意する必要があります。猫の熱中症は、ほとんどが飼い主の方の「これくらいの気温なら大丈夫だろう」という油断から発生しています。夏の時期は、明らかに高温の時期が続きますので、飼い主の方もしっかりとエアコンをつけるなどの対策を行うのですが、秋になって涼しくなると、「大丈夫かな」とついつい油断してしまいます。
秋になっても、お住まいの地域によっては、30℃を超える真夏日となる日もありますので、秋になっても油断せず、日々の温度管理に注視してあげるようにしましょう。
ほとんどの猫は、春の時期と秋の時期の年に2回、毛が生え変わる換毛期を迎えます。これ自体は正常な生理反応なのですが、長毛種の猫や、皮膚がデリケートな猫では、この換毛期にしばしばトラブルが起こります。
猫は換毛期になると、自分で体を舐めて、毛づくろいすることでお手入れをしています。その際、換毛期には大量の毛が抜けますので、舐める時にかなりの毛を飲み込んでしまうことがあります。飲み込んでしまった毛のほとんどは、なんの問題もなく便に排泄されるのですが、中には『毛玉』となって、吐き出してしまったり、場合によっては腸の中で詰まってしまうリスクもあります。
特に、普段から『ときどき吐く』というような症状を持つ猫では、胃腸のトラブルを隠し持っている可能性があり、換毛期の毛玉が負担となってしまうこともありますので注意が必要です。
また、猫の中には換毛期に自分自身でうまくお手入れができず、体のあちこちに毛玉ができてしまうケースもあります。特にペルシャやヒマラヤンなどの長毛種では、自分自身でしっかりと毛づくろいをしていても毛玉になってしまうこともありますし、換毛期に限らず、日常的に毛玉ができてしまう猫もいます。このような猫は、日頃からのこまめなブラッシングが大切です。
一方、長毛種に限らず、『歯周病』や『口内炎』を持つ猫では、口の痛みを持つために、毛づくろいがうまくできず、結果として毛玉ができてしまうこともあります。実は成猫のほとんどが歯周病を持っていると言われています。
また、猫では原因不明の口内炎が起こることがあり、なかなか治療に反応せず対応に苦慮するケースもあります。このような場合は、毛や皮膚自体に問題があるのではなく、お口の中に原因があるため、換毛期に多くの毛玉ができてしまう猫では、お口の中もチェックすることが大切です。
上記のような原因で、換毛期にうまくお手入れができず、毛玉があちこちにできてしまった場合、中には皮膚のコンディションが悪化してしまうケースもあります。
皮膚の表面にある『角質層』と呼ばれる部位は、定期的に新しい角質と入れ替わり、古い角質はどんどんと剥がれ落ちていきます。しかし、毛玉がある状態だと、角質の入れ替わりが上手くできず、古い角質もそのまま皮膚の表面に残ってしまいます。本来、皮膚の表面から剥がれ落ちるはずの古い角質が留まってしまうと、皮膚のコンディションに悪影響を与え、皮膚炎や体臭の原因になることがあります。
また、毛玉がどんどんひどくなってしまうと、毛根が毛玉に引っ張られたりして、皮膚に炎症を引き起こしてしまうこともあります。炎症が起こるとかゆみや痛みで、猫自身がその場所を舐めたり、毛を引っ張ったりするようになりますので、ますます皮膚の炎症が悪化してしまいます。
毛玉ができてしまうと、基本的にはハサミやバリカンで毛玉を切るのですが、切った後の皮膚をみると、赤く皮膚炎になってしまっているケースをよく経験しています。できればそこまでひどくなる前にきちんと処置をしてあげたいところです。
猫の春の対策でもお伝えしましたように、犬だけでなく猫にもフィラリア症は存在します。フィラリア症は、蚊に刺されて感染した寄生虫が、猫の心臓に住み着いてしまうことで、血管を詰まらせるなど、重篤な症状を引き起こす非常に厄介な寄生虫感染症です。猫のフィラリア症は、犬よりも少数の寄生で重い症状が見られるようになりますし、さらには、犬よりもフィラリア症の診断が難しい面もありますので、予防が非常に重要になります。
そのフィラリア予防ですが、通常は蚊が発生する時期から、蚊がいなくなった1〜2ヶ月後まで実施します。本州の多くの地域では、蚊がいなくなる時期はちょうど秋頃になりますが、たまに「蚊がいなくなれば、フィラリア予防は終わっても大丈夫」と考える飼い主の方がいらっしゃいます。
しかし、フィラリア予防で重要なのは、蚊がいなくなってから、さらに1〜2ヶ月多く予防を実施することです。蚊がいなくなってすぐに予防をやめてしまっては、十分な予防はできません。つまり、秋のフィラリア予防はとても重要なのです。
ちなみに、蚊が発生している時期は毎年異なり、なかなか正確に予防の開始時期と終わる時期を予測するのは困難です。当院では、冬の予防を含めた通年予防を実施しています。
ぜひ秋のフィラリア予防もしっかりと行い、確実な予防を実施してあげてください。
猫の秋対策は、日頃からの予防やお手入れが重要になります。また、こまめなお手入れになれると、猫もスキンシップをより好むようになり、深いコミュニケーションが取れるようになります。
ぜひ秋の季節も、猫の体調管理をしっかりと行ってあげるようにしてください。
執筆者
西原 克明(にしはら かつあき)先生
森のいぬねこ病院グループ院長
帯広畜産大学 獣医学科卒業
略歴
北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。
所属学会
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会
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