獣医師執筆
森のいぬねこ病院グループ院長
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属
西原 克明(にしはら かつあき)先生
犬の指間炎は、動物病院でもよく見る病気ですが、普段の生活の中で、その発症を見逃してしまうことも多い上に、治療も手間がかかる病気です。そこで今回は、犬の指間炎について、その原因や治療、早期発見方法などについてお伝えします。
犬の指間炎は、病名のとおり、指と指の間、あるいは肉球の間に炎症が引き起こされる皮膚病です。皮膚病の中でも、指間炎は割と多くみられる皮膚病です。ただし、病態は様々で、指間炎だけがみられる場合もあれば、体の他の場所にも皮膚病が併発している場合もあります。
犬の指間炎の原因ですが、体質的なもの、あるいは外部環境などが考えられています。筆者の経験では、実際の診療では、犬の指間炎の中でも、体質的なもので再発を繰り返すタイプが非常に多いと感じています。
体質的な原因としては、アレルギーやアトピーなど免疫の異常が関係しているものや、脂漏症など皮膚の代謝自体が問題となるケースがあります。さらには、ストレスなどから足先を舐めすぎてしまって皮膚炎になる、心因性が原因となることもあります。
また、外部環境が関係するものとしては、散歩中の怪我が元で、皮膚炎になってしまったり、あるいは足先を洗いすぎて皮膚のバリア機能が落ちてしまい、そこから指間炎を起こしてしまうケースなどがあります。特に、夏場に注意したいのが、日光に照らされて熱くなったアスファルトの上を歩いて火傷してしまい、その後の治りが悪くて、指間炎になってしまうケースです。
外部環境が原因となる指間炎では、ほとんどが、その原因自体はきちんと治療や対策をすれば、指間炎にならずに完治できるのですが、そのまま気づかない、あるいは放置してしまい、犬が舐めすぎてしまうことで指間炎を引き起こしてしまっています。
外部環境による犬の指間炎は、どの犬種にも起こり得ます。特に活発にお散歩をしたり、ドッグランで走り回る性格の犬は、足を傷つけたり、肉球を擦りむいたりすることが多く、そこから指間炎になってしまうことがあります。
一方で、体質的な指間炎は、やはりアレルギーやアトピーにかかりやすい犬種に多くみられます。これらの病気にかかりやすい犬種としては、教科書的には様々な犬種の記載がありますが、国によって地域差があるとされています。筆者の経験では、シーズー、ウェスティ、ゴールデンレトリバー、フレンチブルドック、柴犬が非常に多いと感じています。
犬が指間炎になっても、実は最初の段階では、ほとんどの方は気づかないことが多く、見逃しやすいため注意が必要です。他の皮膚病と同じように、指の間やパットの間の皮膚が赤くなるのですが、飼い主の方からは非常に見えづらい場所のため、なかなか発見することができません。ちなみに、この段階で気づくのは、多くの場合、トリミング中にトリマーさんが発見してくれるケースです。
さらに指間炎が進むと、犬が足先を舐めるようになったり、あるいは足先を噛み噛みする仕草を見せるようになります。この段階で、多くの飼い主の方が気づかれるのですが、すでに指の間やパットの間の皮膚は腫れ上がっていることが多いです。また、舐め続けることで、毛が淡い色から濃い色に変色していることもあります。炎症が強い場合には、足を上げて歩いたりすることもあります。
犬の指間炎は、体質的な原因の場合、1か所だけよりも複数、たいていは4本足全てに見られることが多いため、例えば、前足をよく舐めているのを見つけた場合は、他の足先も必ずチェックすることが大切です。
犬の指間炎の治療は、多くの場合が対症療法を行い、さらに体質的な原因がある場合は、さらに療法食などの対策が必要になります。
対症療法では、外傷などの環境要因の場合は、抗生物質の飲み薬や塗り薬、あるいは皮膚を保護する塗り薬などを使用します。その一方で、体質的なものであれば、さらにステロイドの飲み薬や塗り薬を併用します。
皮膚病変が狭い範囲であれば、塗り薬を使うことが多く、逆に指間炎が前足だけでなく後ろ足にもできている場合や、指間炎以外の皮膚病変もあるような場合、飲み薬で全身的に治療することが多いです。また、抗菌作用や保湿作用のある薬用シャンプーを使用することもあります。
また、柴犬については、その性格上の問題で、塗り薬やシャンプーが難しいケースも多く、治療が長引いたりすることも多くあります。
指間炎の治療は、実は管理が難しく、その理由のほとんどが『犬自身が舐めてしまうこと』です。
犬の指間炎はかゆみが強いため、犬自身がかなり舐めてしまい、それによってさらに重症化することがあります。また、塗り薬や飲み薬を使って治療をしていても、舐めている限りは、なかなか指間炎は回復しません。
さらには、塗り薬の場合、塗る行為そのものが、舐めるきっかけになってしまい、それを止められなければ、結局、治療しているはずが、指間炎を悪化させてしまうこともあります。
つまり、治療の重要なポイントは『舐めさせないこと』になります。そのため、大抵の場合は、エリザベスカラー(エリマキトカゲのように、首の周りにメガホンのようなものと装着して、足先に口が届かないようにするもの)を使用します。ところが、飼い主の方の中には、「かわいそう」ということで、エリザベスカラーをあまり積極的に使用しない方もいらっしゃって、それが治療を長引かせている原因になることがあります。
エリザベスカラー以外では、靴下を履かせる方法もありますが、多くの犬は、靴下自体を嫌がり、自分で取ってしまうことが非常に多いです。また、靴下や洋服は、慣れていないと、私たちが思っている以上に、犬にとってはストレスがかかることがわかっています。つまり、エリザベスカラーのストレスとほとんど変わらないと考えられますので、なるべく短期間で治療効果が高い方法を選んでいただければと思います。
指間炎の予防は、その原因をきちんと対策することで、ある程度予防できます。
環境的なものであれば、お散歩やドックランなど、屋外で運動した後は、こまめに足先をチェックすること、夏場はアスファルトの温度を必ず確認してからお散歩すること、外出後の足洗いは、洗いすぎないこと。こういった日常生活のケアで予防することができます。
一方、体質的なものが原因の場合は、やはりその体質へのケアが指間炎の予防につながります。つまりアレルギーやアトピーの場合、対症療法だけでなく、療法食やサプリメント、スキンケアなど適切な管理方法を取り入れることが、指間炎の予防につながります。ただし、その管理方法は、一頭一頭それぞれで異なることが多いので、ぜひかかりつけの動物病院で相談しながら実施していただければと思います。
筆者の個人的な経験ですが、アレルギーやアトピー、脂漏症を持つ犬の中には、オメガ3やオメガ6など不飽和脂肪酸のサプリメント、あるいはキングアガリクスのようなアガリクス製剤のサプリメントによって、指間炎のかゆみが管理できるだけでなく、毛艶が改善する犬も多くいます。
もし、「指間炎をはじめ皮膚のコンディションがなんとなくいまいちだけど、動物病院にかかるほどかなぁ」とか、「動物病院でしっかり治療しているけど、もう一息、コンディションをよくしたい」と考えていらっしゃる方は、こういったサプリメントを取り入れてみても良いかもしれません。
さらには、指間炎は、初期症状に気づきづらいこと、初期段階では、トリマーさんが発見してくれることが多いため、定期的にトリミングを行い、早期発見や皮膚のコンディションチェックを行うことをお勧めします。
犬の指間炎は、初期症状に気づきづらく、また原因も様々です。もし犬が足先を舐めていたり足先の毛色が変わっている場合は、指間炎にも注意してください。もし指間炎になってしまったら、とにかく舐めさせないようにして、動物病院を受診して治療を進めましょう。
執筆者
西原 克明(にしはら かつあき)先生
森のいぬねこ病院グループ院長
帯広畜産大学 獣医学科卒業
略歴
北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。
所属学会
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会
PS. 指間炎が良くなったワンちゃん達を紹介します
https://www.kingagaricus-pet.com/post-456/
https://www.kingagaricus-pet.com/post-5485/
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