執筆者
西原 克明(にしはら かつあき)先生
森のいぬねこ病院グループ院長
帯広畜産大学 獣医学科卒業
略歴
北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。
所属学会
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会
獣医師執筆
森のいぬねこ病院グループ院長
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属
西原 克明(にしはら かつあき)先生
犬の脱毛症は、よく見かける症状の一つですが、実は様々な病気が関係しています。
そのため、原因によって脱毛症の治療もそれぞれ異なりますので、脱毛症はきちんと診断することが重要です。
そこで今回は、犬の脱毛症に関係した病気についてご説明します。
犬の脱毛症は、実に様々な病気が原因となります。まず、毛の生え変わりがある犬種では、時期的な脱毛(夏毛と冬毛の入れ替わり)についてはなんの問題もありません。その際、毛が抜けた後には、ハゲや湿疹といった病変は見られません。
一方、病的な脱毛症では、毛が抜けた後に毛が生えてこない、湿疹やフケが出ている、とても痒がっているといった症状を伴っています。また、脱毛症といっても、体の一部だけが抜けるタイプ、あるいは全身のほとんどの毛が抜けてしまうタイプなど、いくつかのパターンがあります。そこで今回は、脱毛のパターン別で、それらの原因をご説明します。
このタイプは、いわゆる『10円ハゲ』のような脱毛が、体のあちこちにみられる脱毛症です。このタイプのほとんどが、細菌やカビなどの『感染症』が原因と言われています。
皮膚や毛穴に細菌が感染することで引き起こされる皮膚炎です。膿皮症の中でも、特に再発を繰り返すタイプでは、アレルギー性皮膚炎のような皮膚病が根本原因になっていることが多いように感じています。
そして、その根本的な皮膚炎によって、皮膚のバリア機能が破綻してしまい、そこに細菌感染が起こってしまうようです。さらには、その根本原因が複数ある場合や、膿皮症に加えてマラセチア性皮膚炎など、他の皮膚病を併発していることも多く、実際の膿皮症は、診断や治療が複雑になることもあります。
このように、一概に膿皮症といっても、様々なパターンがありますので、膿皮症での脱毛が起きやすい場所というのは、特定の場所にはなく、それぞれの原因や併発している皮膚病によって変わってきます。
また、膿皮症のほとんどは、脱毛だけでなく、フケや湿疹、かゆみなどの症状が一緒にみられることがほとんどです。
膿皮症の治療は、それぞれの皮膚病にあった抗生物質を使用して治療します。抗生物質は、状況によって飲み薬を使うこともあれば、塗り薬を使用することもあります。さらには、抗菌成分が含まれた薬用シャンプーによる治療を行う場合もあります。
また、感染した細菌だけを治療していては、再発の原因になりますので、根本的な原因となっている皮膚病の治療も行います。
さらには、膿皮症を繰り返す犬のほとんどが、皮膚や毛のコンディションが悪化していますので、上記の治療に加えて、ドッグフードやサプリメント、シャンプーや保湿剤など、トータル的なスキンケアも一緒に行うことをおすすめします。
犬の皮膚糸状菌症は、いわゆる『カビ』による皮膚の感染症です。皮膚糸状菌症も、通常、健康な犬ではほとんど見られない病気で、子犬や高齢犬など免疫力が落ちた犬で多く見られます。
皮膚糸状菌症の症状は、あちこちの脱毛に加えて、膿皮症と同じようにフケや湿疹、かゆみなどが見られます。
皮膚糸状菌症の治療は、抗真菌薬というカビを抑える薬を飲んだり、塗ったりします。さらには、抗真菌剤が配合された薬用シャンプーで薬浴することもあります。ただし、犬の皮膚糸状菌症は非常に厄介で、完治するまでに数ヶ月以上、抗真菌薬が必要になることもあります。
また、免疫力が落ちてるために引き起こされる感染症ですので、治療あるいは再発予防として、免疫力を高めることも重要になります。
いわゆる毛穴に起こる炎症で、犬の皮脂腺炎はほとんどが自己免疫性の皮膚病と考えられています。自己免疫性というのは、自分の免疫細胞が、自分自身の組織を攻撃してしまう病気で、原因はよくわかっていません。
犬の皮脂腺炎では、よく見ると脱毛した後の皮膚に、プツプツと発疹が見られることが多く、またほとんどの場合は、痒みがあります。自己免疫性の皮脂腺炎は、ステロイドや免疫抑制剤で治療します。しかし、これらの治療はあくまで対症療法のため、完治が難しく、長期間の治療が必要になります。
このタイプの脱毛は、脱毛する場所が左右対称で、脱毛の程度は様々ですが、病気の原因によっては、脱毛がどんどんと広がってしまうこともあります。
左右対称に脱毛するパターンで最も多く見られる原因はホルモン異常です。一般的には脱毛がみられる以外、かゆみなどの症状はありませんが、個人的な経験では、ホルモン分泌異常に膿皮症などを併発して、かゆがっている犬も多く診ますので、見かけの症状だけで、病気の判断は行わないように注意が必要です。
副腎という臓器から分泌されるコルチゾールというホルモンが、過剰に分泌されてしまう病気です。その結果、左右対称の脱毛が見られるようになり、さらには多飲多尿(お水をたくさん飲み、おしっこがたくさん出てしまう症状)、お腹の膨らみなど、様々な症状がみられるようになります。
また、副腎皮質機能亢進症は、脳下垂体という脳の一部が大きくなることで発症するケース、副腎自体が腫瘍(ガン)になるケース、その他の病気に併発して発症するケースがあります。治療はそれぞれの原因、あるいは治療の難易度によって、外科手術を実施したり、あるいはホルモン分泌を抑える薬を使って治療します。
甲状腺から分泌されるサイロキシンというホルモンが低下することで発症します。甲状腺機能低下症では、左右対称の脱毛のほか、寝ている時間が多い、痩せにくくなったというような、「年をとったなあ」と感じるような症状がみられます。そのため、つい様子を見てしまいがちで、実際の診察でも、ワクチンなどで定期的に来院した時に偶然見つけることが多いです。甲状腺機能低下症は、自己免疫性あるいは遺伝性の甲状腺炎によって引き起こされると考えられています。
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンを飲み薬で補充することで治療できます。適正量が補充されていれば、脱毛をはじめとした症状は概ね改善します。
いわゆる男性ホルモンや女性ホルモンの分泌異常でも脱毛症が見られます。犬の場合は、過剰分泌の場合、大抵は不妊手術を行うことで改善します。
原因不明の脱毛症で、頭部と四肢以外の毛がほとんど抜けてしまう皮膚病です。
かゆみや湿疹など、他の皮膚症状は見られないことがほとんどで、ポメラニアンに非常に多く見られる病気です。
X脱毛症は原因不明なため効果的な治療方法はありません。しかし、中には薬やサプリメントによって改善するケースもあります。
そのほかにも稀なケースとしては、毛色に関連した脱毛や、毛の生え替わり周期の異常、あるいは腫瘍(がん)に関連した腫瘍随伴症候群という病気による脱毛などがあります。
また、バリカンで毛刈りをした後、毛が生えてこなくなり、脱毛状態になってしまうこともあります。
大抵の脱毛症は、原因の病気が治療できれば再び毛が生えてくるようになります。しかし、中には稀に脱毛の後、毛が生えてこないケースもあります。原因ははっきりとはわかっていませんが、おそらく毛が生える周期が止まってしまい、原因治療によってもその周期が動かないためと思われます。
また、これは個人的な経験ですが、サプリメントのキングアガリクスを使うことで、毛艶が改善し、毛量がアップする犬を見かけることがあります。もちろん、ヘアケアのために使ったのではなく、免疫アップや腸内細菌の改善など、他の目的で使っていたところ、毛艶や毛量がグッと良くなったというものです。これが脱毛症の改善に効果があるかはまだわかりませんが、脱毛症の原因疾患のケアとしてもアガリクスは役立ちますので、個人的には脱毛症にぜひ取り入れていただきたいサプリメントだと考えています。
脱毛症の原因となる病気には、様々なものがあり、それぞれの病気を確実に診断し、しっかりと治療を行うことで、再び毛が生えてくることも多くあります。
残念ながら、脱毛の見た目だけで診断がつくことは非常に稀ですので、脱毛症が見られた時は、動物病院できちんと診察を受けるようにしましょう。
執筆者
西原 克明(にしはら かつあき)先生
森のいぬねこ病院グループ院長
帯広畜産大学 獣医学科卒業
略歴
北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。
所属学会
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会
© 2024 ケーエーナチュラルフーズ株式会社