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犬の膵炎(原因、症状、治療法)

獣医師執筆

犬の膵炎(原因、症状、治療法)

犬の病気

森のいぬねこ病院グループ院長

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属

西原 克明(にしはら かつあき)先生

 

嘔吐や腹痛といったいわゆる「お腹の症状」に実は『膵炎』が関わっている可能性があります。そういった症状は犬ではよく見られる症状ですので、ついつい様子を見がちになりますが、場合によっては命に関わる状態に陥る可能性があります。
今回は、犬の膵炎について解説します。

 

犬の膵炎ってどんな病気なの?

犬の膵炎は、様々な症状が見られ、中には命に関わるような重症化するケースもあります。また、突然の激しい症状が見られたり、ほとんど無症状で過ごすようなケースもあり、見た目での判断が非常に難しい病気です。実際、ある大学の調査では、亡くなった犬のほとんどで、膵臓に何かしらの炎症があり、私たちが考えている以上に、犬の膵炎は多く見られる病気だと考えられています。

 

犬の膵炎の原因は?

実は犬の膵炎の原因ははっきりとはわかっていません。人の膵炎は、アルコール(お酒)や胆石が問題になることが多く、さらに暴飲暴食といった食事が関係していると言われています。

 

その一方で、犬では、肥満、脂肪の多い食事、栄養バランスや消化の悪い食事などが、膵炎と関わっていると考えられており、さらには、血液中の中性脂肪が高くなるような病気(高脂血症)も膵炎と関わっていると考えられています。中性脂肪が高くなる病気は、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)や糖尿病、甲状腺機能低下症などがあります。

 

そのほかには、手術後の炎症も膵炎との関わりが強いと考えられています。
また、シュナウザーは、もともと高脂血症になりやすい犬種なので、やはりシュナウザーも膵炎のリスクが高い犬種と言われています。

 

犬の膵炎の症状にはどんなものがあるの?

犬の膵炎では、そのほとんどで嘔吐や下痢、元気食欲の低下、脱水が見られます。しかし、犬の膵炎の中には、症状がほとんどないものもありますし、非常に軽い症状しか見られないタイプもあります。その一方で、みるみるうちに状態が悪化し、腹膜炎やDIC(播種性血管内凝固症候群)といった非常に危険な症状を併発してしまうケースもあります。

 

人の膵炎では、腹痛が見られることが多いようですが、犬の場合は、痛みの評価が難しいため、やはり腹痛が見られる犬と、腹痛があるのかどうかわからない犬がいます。

 

このように、犬の膵炎は、中には危険な状況に陥るものもありますが、その症状は多種多様です。そのため、発見が遅くならないように、特に嘔吐や下痢、元気食欲の低下、腹痛などの、どれか一部の症状が見られた時は、なるべく早めに動物病院に相談するようにしましょう。

 

特に嘔吐や下痢は、時々見られる犬も多く、ついつい様子見がちになります。しかし、残念ながら、見た目の症状だけで膵炎かどうかを判断するのは非常に難しいため、心配な場合はこまめに受診する方が良いかもしれません。

 

犬の膵炎はどうやって診断するの?

犬の膵炎は、主に血液検査と画像検査で診断します。

 

以前は、血液検査では、膵炎の診断精度が低くて、診断にはならないと言われていましたが、最近の血液検査では、非常に高い精度で膵炎を診断することが可能になりました。また、超音波検査もひと昔前よりは、格段に検査機器のスペックが向上していて、以前は診断できなかった膵炎の診断ができるようになっています。さらには、CT検査も犬の膵炎の診断では役立ちます。ただしCT検査は実施できる動物病院が限られています。

 

もちろん、膵炎に限らず、どの病気にも言えることですが、特定の検査だけで診断するのではなく、その症状や視診、触診といった基本的な診察も重要で、実際の膵炎の診断では、これらの検査所見を全て合わせ、総合的に判断します。

 

ただし、このように膵炎の診断精度は非常に高くなりましたが、中には、症状がほとんど見られない膵炎も診断できるようになってきました。しかし、この『症状の見られない膵炎』がどの程度犬の負担になっているのか、あるいは症状がない状態で治療して、どれくらいの治療効果があるのかはわかっていなくて、獣医師の間でも考え方がそれぞれ異なっているという現状があります。

犬の膵炎の治療は大変!?

膵炎の治療は、残念ながら未だ特効薬的な治療方法はありません。

 

基本的には対症療法が中心で、吐き気止めの薬や点滴をしながら治療します。そして、ほとんどの場合は嘔吐が見られ、膵臓の炎症が改善するまで、絶食絶水の状態が続きますので、入院治療を余儀なくされることが多いです。

 

また、膵炎が重症化すると、腹膜炎など命に関わる状態に陥ることがありますので、その時には、手術を含めたより積極的かつ緊急的な治療が必要になることもあります。

 

その一方で、最近では、より膵炎に対して治療効果の高い薬剤が使用されるようになりました。これまでの治療より、しっかりと膵臓の炎症を抑える効果が見られる薬です。まだ使われ始めて間もないため、実際の膵炎の犬に対するデータがまだ十分ではありませんが、今後は期待できる治療になるかもしれません。

 

また、膵炎の治療では、食事療法も重要で、絶食の後はほとんどの場合、低脂肪食が使用されます。また消化性の良いものを与えることも必要で、最近では低脂肪の流動食が、動物病院専用の療法食として発売され、実際の治療でも使われることが増えています。

 

犬の膵炎を予防する方法はあるの?

予防についても、今のところ確実な方法は存在しません。

 

一般的には、低脂肪食を食べさせることが多いのですが、筆者の経験上、低脂肪食を食べている犬でも、膵炎の再発は決して少なくありません。

 

低脂肪食を食べさせる理由は、おそらく高脂肪食が膵炎のリスクになるということと、膵臓から分泌される消化ホルモンの一つ、リパーゼの分泌を抑えることで、膵臓の負担を減らそうという考えがあると思われます。リパーゼは、脂肪を分解する消化ホルモンなので、低脂肪の食事にすることで、リパーゼの必要量を抑えるという考え方です。

 

しかし、現実は低脂肪食だけでは再発を抑えることが難しく、その理由として、筆者個人の考えではありますが、膵臓には、デンプンを分解するアミラーゼや、血糖値を下げるためのインスリンなど、そのほかにも様々な働きがあり、おそらく脂肪だけを抑えても、膵臓の負担はそこまで軽減しないからだと考えます。

 

したがって、低脂肪食だけで膵炎を予防するのは難しいと感じているのですが、筆者の動物病院では、脂肪を抑えるだけでなく、デンプンも抑え、さらには食事自体の消化性を高めることで、ある程度の予防効果が得られているのでは、と感じています。

 

デンプンは、膵臓からのアミラーゼによって分解されますし、さらにはタンパク質や脂肪よりも早くブドウ糖を作ることができるため、やはり膵臓からのインスリンの分泌も促進させます。そのため、デンプンの摂取量を抑えることで、これらの分泌も減らし、膵臓の負担を軽減できるのでは、と考えています。

 

しかし、脂肪とデンプンを減らすと、必然的にエネルギー源として、タンパク質の摂取量が増えてしまいます。実はタンパク質は、脂肪や炭水化物に比べて、消化はあまり良くないと言われてますので、脂肪とデンプンが少ない分、多く摂取すると、やはり消化に負担がかかります。そのため、膵炎の予防として、高タンパク食も決して良いものではないと考えます。

 

そのため、当院では、消化性の高いタンパク質を用いたドッグフード、あるいは手作り食に、玄米を麹で発酵させた発酵サプリメントを加えて使用しています。玄米に多く含まれる食物繊維は、デンプンよりも緩やかにブドウ糖を作りますので、膵臓にそこまで負担をかけず、なおかつタンパク質以外のエネルギー源にもなります。

 

さらには、玄米自体は犬の消化にはあまり良くない食材ですが、発酵させることで、消化吸収力を高めることができます。そのような発酵サプリメントを併用することで、脂肪やデンプンの摂りすぎを抑え、なおかつ食事自体の消化性が高まり、結果として膵炎の予防につながるのでは、と考えています。

 

実際に、当院で診療させていただいている犬の中で、低脂肪食だけでは再発を繰り返していた膵炎の犬が、これらの食事によって再発を抑えることができているケースもあります。

 

このように、犬の膵炎を予防するためには、食事管理は非常に大切だと考えます。もちろん、それ以外にも、太らせないようにする、十分な運動をさせる、十分な水分を摂るようにする、といった一般的な生活を整えることも非常に重要だと考えています。

 

犬の膵炎のまとめ

膵炎は様々な症状が見られ、一見すると膵炎かどうかの判断に迷うことがたくさんあります。しかし、今では膵炎の診断精度も高くなっていますので、嘔吐などの消化器症状が見られたときは、早めの受診をお勧めします。

 

また、膵炎の治療や予防に確実な方法はいまだにありませんが、食事内容や日常生活の中でできる限りの対策を行うことで、良好に経過しているケースも見られています。

 

執筆者

西原先生

 

西原 克明(にしはら かつあき)先生

 

森のいぬねこ病院グループ院長

帯広畜産大学 獣医学科卒業

 

略歴

北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。

 

所属学会

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会

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著者⼀覧 Author

  • 森のいぬねこ病院グループ 院長

    西原克明先生

    獣医師

  • 増田国充先生

    増田国充先生

    獣医師

  • 大谷幸代先生

    愛玩動物飼養管理士

    青山ケンネルスクール認定A級トリマー

    メディカルトリマー

  • 山之内さゆり先生

    動物看護士・トリマー

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    愛玩動物飼養管理1級

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    小動物看護士他

  • 大柴淑子先生

    動物看護士(元)

    ペットアドバイザー