愛玩動物飼養管理士執筆
愛玩動物飼養管理士
青山ケンネルスクール認定 A級トリマー
大谷幸代先生
ポメラニアンは子犬から成犬に育つまでの途中で何度か換毛期を乗り越えます。この時、顔がまるで子ザルのようになったり、体の被毛が驚くほどに薄くなることがあります。中にはポメラニアン本来のイメージと大きくかけ離れた愛犬を前に驚く方もいるでしょう。でもこの換毛期を繰り返すことで、ポメラニアンはあのボリューム感満点な姿にたどり着くのです。
ただこの過程で、中には痒みや過度な脱毛に悩まされることがあります。このような時は、単なる成長過程と捉えずに、動物病院での治療が必要だと知っておいてあげましょう。
ポメラニアンは犬種特有の体質から、生後間もない時期に眉間やオデコの脱毛が起こることがあります。大抵の場合、マラセチア菌やアカラスといったカビが原因です。
これらの菌は、健康な犬にも常に存在し、犬であればだれでも保有しているものです。
決して過度に洗ったり、敬遠する必要はありません。
健康な状態であれば、これらの菌の保有数は一定に調整されているものの、
・離乳
・ストレス
・生活環境の変化
・体調不良
などが重なると、保有する菌の数が急激に増え、辛い症状を引き起こすことがあります。
中でもマラセチア菌が原因となるマラセチア皮膚炎は辛い痒みと脱毛をもたらします。この脱毛は数日~数週間で全身に症状が広がります。気が付けば全身の地肌が露出するほどに見栄えが変ってしまうことも珍しくありません。
大抵の場合は、獣医師の指示のもと治療に取り組むことで、数か月で完治に至ります。
ただ中には完治後も被毛の毛量が少ない、毛質が硬いと感じることもあります。
毛質が完全に改善するまでには治療後も栄養補給などのケアが必要になるので、気長に取り組んであげましょう。
ポメラニアンがマラセチア皮膚炎を発症する原因は、多くの場合「ポメラニアンだから・・・」と言われてしまいます。
これでは飼い主としてなかなか納得できず、不安が募ってしまうでしょう。
でもポメラニアンは菌はもちろんホルモンや遺伝的な形質が理由で皮膚トラブルを抱えることがたびたびあります。
中には繰り返し発症するものの、その都度原因が異なることもあります。
原因が何か?は外見からは判断することが出来ないので、痒みや脱毛に気が付いた時は早急に動物病院を受診して、皮膚検査を受け、突き止めてあげましょう。
原因菌の種類によって治療法は異なるので、飼い主の判断で治療を行うことのないよう注意しましょう。
マラセチア皮膚炎はマラセチアというカビの一種が体の表面に付着することで起こります。
このカビは湿気や適度な温度が揃うと一気に増殖をします。
犬の場合、耳の中や脇、お腹など柔らかい部分から症状が始まることが多々あります。
このマラセチア皮膚炎はポメラニアン以外には
・プードル
・シーズー
・キャバリア
・コッカー
・シュナウザー
・ゴールデンレトリバー
といった垂れ耳の犬達にも発症がよくみられます。
また耳は立っているものの、不衛生な環境で誕生、発育した子犬にもみられることが多いのも特徴です。
カビは目に見えないので、早期発見が難しいとも言えますが、痒みや脱毛という症状がみられる場合は、念の為検査を受けておきましょう。
マラセチア皮膚炎は体の表面で増殖してしまったカビを減少させることで、症状を緩和します。
そのためには、殺菌効果のあるシャンプーで洗浄し、皮膚や被毛を清潔な状態に保てるよう意識します。
具体的には「ノルバサン」という薬用シャンプーで週に数回洗うと効果的です。
ただこの時、シャンプー時に使用するブラシやタオルの殺菌が不十分だと、2時感染を繰り返すことになるので注意しましょう。
タオルは使い捨てが可能なキッチンペーパーが実は役立ちます。大判のキッチンぺーパーで水分を取り除いてあげましょう。使い終わったキッチンペーパーは密閉出来る袋に入れ処分をします。ブラシ類は殺菌効果のあるシャンプー剤や消毒剤を活用すると安心です。
マラセチア皮膚炎は小まめな洗浄や痒みどめの薬剤の服用で症状が完治したと勘違いされがちです。
でもカビ菌は皮膚の表面や内部に残留していることが多く、決して短期間で完治できるものではありません。
目立った症状が見られないと感じても、必ず動物病院を受診して、治療や薬用シャンプーでの洗浄が必要なくなったことを確認しましょう。再発を緩和を繰り返すと次第に皮膚や被毛の再生機能も低下してしまいます。
治療に取り組むうえでは、しっかりと完治を目指すことが大切です。
実は犬の皮膚は人間の赤ちゃんよりも薄くデリケートなことを知っていましたか?
皮膚が薄くデリケートだからこそ、犬は全身を被毛で覆い守っているのです。
マラセチア皮膚炎を発症するとこの覆いの役割を失い、皮膚は外部からの刺激を受けやすくなります。
ただ爪で掻いただけ、日差しを受けただけ、自宅でシャンプーをしただけでもダメージが加わってしまいます。
愛犬がマラセチア皮膚炎を発症している間は、いつもよりも念入りなケアが必要だと意識してあげましょう。
例えば
・日差しの強い日は洋服を着せて外出をする
・ブラッシングは皮膚を傷つけないように注意する
・シャンプー後のタオルドライは皮膚をこすらないように意識する
・ドライヤーは皮膚から20cm以上離し、やけどに注意する
マラセチア皮膚炎を発症している間、体に残っている被毛は軽くひっぱるだけでするりと抜け落ちてしまうでしょう。かといってあえて引き抜く必要はありません。
皮膚に余計な刺激を与えることで、別のトラブルにつながることもあるので、出来る限り「優しい」ことを意識して接してあげましょう。
またシャンプーの頻度が上がることで、皮脂不足が起こり、フケやかさつきが起こることもあります。
そのような場合は洗い上がり後に犬用化粧水を吹きかけ、保湿ケアも行ってあげましょう。
タンタン君は生後2か月でペットショップから新しい家族の元へ迎えられ、3歳を迎えるこれまで健康そのものという生活を送っていました。
ポメラニアンの子犬にありがちな幼犬期の脱毛に悩まされることもなく、家族も皮膚トラブルとは無縁だと感じていたそうです。
しかし3歳を過ぎたころから、なぜか胸、脇のあたりの薄毛が目立つようになり、その後背中から全身にも脱毛がひろがり始めました。痒みもひどく、壁や床、散歩中にはアスファルトに体をこすりつけることもあったそうです。
あまりに急速に進む脱毛に家族も不安を覚え、動物病院を受診したところマラセチア皮膚炎を発症していたそうです。
実はタンタンは新たに子犬を家族に迎えたいと思い、ここ数か月様々なブリーダーの元を訪問し、犬舎へ入ったり、子犬と触れ合う機会があったそうです。
飼い主さんと相談の結果、まずはタンタンの症状が完治することを最優先しようという結論に至り、それからは毎日薬用シャンプーの利用に足を運んでもらっています。
治療を始め3週間がたつと、抜け毛は一旦収まりを見せ、痒みも薬を服用していることでコントロールすることが出来ています。
あとは時間をかけて被毛が生え揃うことを待つばかりです。
マラセチア皮膚炎の症状は一進一退で油断をすると再発をすることもあるので、薬用シャンプー回数は減らしつつも、継続の予定です。
マラセチア皮膚炎はストレスや不衛生な環境、母犬からの感染など様々な可能性が挙げられ、原因の特定が出来ません。
そのため完全な予防策を講じることも出来ません。
ただ治療が遅れてしまうと、症状が全身に広がり、治療に長い期間が必要になるので、早期発見、早期治療開始を心掛けてあげましょう。
特にポメラニアンは発症率が高いので、成犬になってからも注意が必要です。
日ごろの生活では
気になる症状がある場合は動物病院を受診して、検査を受けてあげましょう。
【大谷幸代先生】
愛玩動物飼養管理士
青山ケンネルスクール認定 A級トリマー メディカルトリマー
学生時代にイギリスへドッグトレーニングの勉強のため、短期留学。その後、ペットショップ販売員、トリマー、ドッグトレーナー、ペットシッターなど様々な仕事を経験してきた。ホリスティックケアアドバイザーや日本アロマテラピー協会認定アロマテラピーインストラクターなどの資格も取得。ペット関連用品の開発、雑誌などへのコラム執筆を手がけるなど、【犬を飼う生活から、犬と暮らす生活へ】の実現をめざし、幅広く活躍している。
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