動物看護士・トリマー執筆
執筆者:山之内さゆり先生
動物看護士・トリマー
ダックスフンドは垂れ耳と胴長短足が特徴的な犬種ですが、この特徴のひとつである垂れ耳がマラセチア外耳炎を引き起こしやすい原因になっています。
しかし、単純に垂れ耳だからマラセチア外耳炎になるというだけではなく、ほかにもいろいろな原因が潜んでいることも。
そこで、今回はダックスフンドのマラセチア外耳炎とは何なのか?原因・治療・予防法についてお伝えしていきます。
ダックスフンドがなる外耳炎のひとつにマラセチア外耳炎があります。そして、外耳炎とは外耳道といって耳の穴とその周辺に炎症が起こった状態。
では、マラセチア外耳炎とはいったいなになのか?というと名前の通りマラセチアが原因となって起こる外耳炎のことを意味します。
マラセチア外耳炎になると強い痒みや炎症だけではなく、ツーンとした独特の強いニオイもするようになるため、ひどくなると生活環境にニオイが充満してしまうことも。
また、そうしたニオイだけではなく強いかゆみから頻繁に耳をかきむしってしまい、その結果爪で耳に傷がつきやがて痛みに変わることも少なくありません。
痒みと痛みが入り混じった状態での生活は寝ても起きてもストレスであり、そうしたイライラから攻撃的な性格になってしまう場合もあります。
分かりやすい反応としては顔や耳付近を触れるのを極端に嫌がり、手が近づこうものなら噛みつこうとする…といった状態です。
ここまでなってしまうとトリミングに連れて行っても触ることができないため、耳掃除や耳付近の施術が十分に行えない可能性もでてきます。
また、犬の状態と気持ちを優先するトリマーではなく『施術をやり通す』ことを重点として考えているトリマーになると、痛みで嫌がる犬を2人3人で押さえつけて意地でも施術をやり通します。
ここまでされて犬に残るのは、痛み・苦しみ・イラ立ち・恐怖といった負の経験ばかりですし、無理やりやることで症状が悪化したり治療して完治した場合でも負の経験から触られるのを嫌がるように。。。
こうなってしまっては今後の生活にも良い影響は出ないですし、それを改善していくのも時間が必要になってくるため絶対に避けたいところです。
ダックスフンドのマラセチア外耳炎の元となっているのはマラセチア酵母菌というカビです。
もともとマラセチア酵母菌は皮膚の上の存在している菌ではあるのですが、免疫力・抵抗力の低下やアレルギー(アトピー性皮膚炎や食物アレルギー)、内分泌系の疾患、間違った耳のケア、といったものが引き金となることでマラセチア酵母菌が増殖します。
そうして増殖したマラセチア酵母菌が刺激となって強いかゆみや炎症、ツーンとした独特なニオイといった症状を引き起こすのです。
ただ、マラセチア外耳炎の直接的な原因はマラセチア酵母菌ではあるものの、マラセチア酵母菌が増殖するきっかけとなっている根本の原因は先述した内容のもの。
ですから、ダックスフンドがマラセチア外耳炎になったら単純にマラセチア酵母菌だけを対処するのではなく、引き金となっている原因を除去する必要があります。
ダックスフンドがマラセチア外耳炎になってしまう大元の原因を治療・解決しなければ、どんなにマラセチア酵母菌に対処したところですぐに繰り返してしまうのであまり意味がありません。
そこで、まずはマラセチア外耳炎を引き起こしている根本の原因に目を向けることから始めます。
アレルギーが基礎疾患となっているのであればアレルギーの治療も一緒に行なっていきます。
そして、食物アレルギーやアトピー性皮膚炎などさまざまなアレルギーがありますが、アレルギーには必ずアレルゲンとなるものがあることはみなさんご存じでしょう。
そのアレルゲンを除去することでアレルギー反応が起こるのを防ぎ、皮膚の炎症・かゆみといったトラブルから守ってあげることができます。
アレルゲン除去の方法については、食物アレルギーであれば食物アレルギー用の処方食を生涯与え続けることでケアが可能。
アトピー性皮膚炎は症状の大きさにもよりますし、様々なアレルゲンが存在するので全てを除去するのは少し難しいのですが、ハウスダストや花粉といったものをできるだけ排除するようにすることがまずは大事です。
そのうえで、抗炎症剤やアトピー性皮膚炎に対処した薬用シャンプーでのケアを行ない、皮膚のバリア機能を高め症状を緩和していきます。
内分泌系疾患はホルモンが過剰に分泌されているのであればそれを抑え、逆に不足している場合は補ってあげるといった治療をしていきます。
内分泌疾患の治療は生涯薬を使ってホルモンをコントロールしていくことがほとんどですが、ホルモンをしっかりコントロールできれば皮膚の異常なども改善・緩和することが可能です。
アレルギーや内分泌疾患など基礎疾患となるものが特になければ、マラセチア外耳炎になってしまった耳を洗浄治療します。
洗浄治療とはイヤークリーナーを使って耳の奥から汚れを浮か出し、コットンでキレイに掃除してから点耳薬などを使って抗菌するといったものです。
マラセチア外耳炎になっているときは耳の炎症がひどく痛みを伴っている可能性もあるため
、耳洗浄による治療は必ず動物病院で行ってもらうようにしてください。
耳掃除をして薬を入れればいいだけだからと軽い気持ちで触ってしまうと、逆に耳を傷つけて悪化する可能性もあります。
点耳薬については自宅でも1日2回程度を目安にしばらく続ける必要がありますが、もし触られるのを嫌がってとても自宅ではできないといった場合は、通院して点耳してもらうか他の治療法はないか相談してみましょう。
マラセチア外耳炎は強い痒みを伴い炎症が広がるため、触られるのを嫌がりかゆみと痛みに苦しむことも少なくありません。
早期治療をすることが何よりではありますが、できればマラセチア外耳炎にならないように予防してあげることが一番大事です。
そこで、自宅でもできるマラセチア外耳炎の予防方法をいくつがご紹介します。
耳を清潔に保ってあげたいという気持ちはとてもいいことですし、そのために自宅で耳掃除をするのも賛成です。
しかし、間違った方法で耳掃除をしてしまうと逆に耳を傷つけ、それによってマラセチア外耳炎を発症することにもなります。
正しい耳掃除の仕方をご紹介しますがあくまでも自宅でのケアの方法ですので、耳の状態によってもっと念入りにケアする必要がある場合は必ずプロにお任せしてください。
【正しい耳掃除の仕方】
1.コットンまたは犬用の綿棒を用意する。(犬用の綿棒はコットン部分がデリケートな耳のために柔らかくできているのでおすすめ。人間用のは犬用に比べて硬いので力加減などがわかるまではあまりおすすめできません。)
2.イヤーローションを綿棒にたっぷりつける。(1~2秒くらいイヤーローションを出して湿らせましょう。ちょこっと付ける程度では汚れも落ちにくく耳を傷つける原因にもなりやすいです。)
3.目に見える範囲の汚れを優しく拭き取る。(キレイにしようと耳の奥まで綿棒を入れがちですが、奥まで入れるのは素人では加減も難しく危険です。自宅でのお手入れであれば見える範囲の汚れを取る程度で問題ありません。)
4.乾いたコットンや綿棒で優しく水分を拭き取る。(イヤーローションで濡れたままだと湿気で雑菌が繁殖してしまうため、必ず最後は乾いたコットンで優しく拭き取ります。力を入れてゴシゴシする必要はありません。)
※耳掃除は耳が汚れていたらするくらいで大丈夫です。耳が汚れてなければする必要はありませんし、体質によってはほとんど汚れが出ない子もいるくらいです。
目安としては月に1回程度で考えておけばいいですが、もし1週間もしないうちに汚れるなど頻繁に汚れが出る場合は動物病院へ相談しましょう。
マラセチア外耳炎の引き金となる原因のひとつに免疫力・抵抗力の低下があります。
免疫力や抵抗力が低下していると、体調を崩しやすくなったり皮膚の免疫機能にも影響を及ぼし肌荒れを引き起こしやすくなるなど、さまざまな不調につながるのは明白です。
しかし、それとは逆に免疫力や抵抗力が高い状態を維持していると体調も崩れにくくなりますし、皮膚の健康状態も良好でいられるなどすべての健康に繋がります。
そこでおすすめの免疫力・抵抗力アップの方法が毎日の食事と一緒にサプリメントを与えることです。
サプリメントを選ぶポイントとしては、QOL(生活の質)をアップすることを目的としたものを選ぶといいですね。
また、良質なアガリクスを使ったサプリメントは免疫力のアップに大きく働きかけてくれることもわかっているので、どんな成分のものを選んだらいいのか分からない…といった方は選ぶ目安としてみてもいいと思います。
合わせてできるだけ無添加のものを意識すると、本当に体にいいものだけを取り込むことができるのでおすすめです。
免疫力アップのためには良質な食事を与えるものとても重要になってきます。
特定の疾患があればそれに合った処方食などを与える必要がありますが、そうでない場合でも良質な原料を使ったフードを与えることで力強い細胞が生まれます。
人間と同じように犬の体も細胞細胞ひとつひとつが元気でないと弱い体になってしまいますし、特にダックスフンドは皮膚が弱い犬種でもあるため体づくりはとても大切。
加えて適度な運動をすることで心身ともに健康的な状態へと導くことができるため、それが免疫力にいい影響を与えてくれます。
ダックスフンドは皮膚が弱い犬種でもあり、その結果マラセチア外耳炎にもなってしまうということも少なくありません。
特に、耳は粘膜でできているため傷がつきやすく間違った耳掃除をしているとすぐに炎症を起こしてしまいます。
しかし、マラセチア外耳炎は適切な治療はもちろん正しい耳のケアと健康的な体づくりをしてあげることで予防することはできるものです。
かゆみから痛みへと変わり可哀想な思いをさせなくてもいいように、日頃からできるかぎりの予防と、万が一耳を頻繁にかゆがっている様子が見られたらすぐに動物病院へ行くようにしましょう。
執筆者:山之内さゆり先生
トリマー、動物看護士
約10年間動物病院でトリマー兼動物看護士として勤務。
現場で得た知識と経験を情報として発信し、飼い主さんとペットが幸せに暮らせるためのお手伝いをしていきたいと思います。
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