動物看護士(元)執筆
執筆者:大柴淑子(おおしばしゅくこ)
元動物看護士・ペットアドバイザー
本来は抜け毛が少なく、伸ばしてもケアしやすい被毛であるため「飼いやすい犬種」と言われているシーズー。しかし細く柔らかい毛が密集しているため、脂っぽくなりやすい体質でもあります。シーズーは元々寒くて乾燥気味の環境であるチベット原産の犬種。しかし正反対で高温多湿環境の日本では、湿気が毛の中に溜まりやすくなり、どうしても脂っぽくなりやすいのです。
脂分や湿気が溜まるということは、菌も溜まりやすく繁殖しやすいということ。この皮膚から分泌される脂分をエサにするのが、マラセチアという真菌の一種です。シーズーを飼う時はこうした体質や環境に配慮し、皮膚トラブルの原因となる真菌を始めたとした原因菌に感染しないように気を付けなければならないのです。
マラセチアとは、真菌の一種である酵母菌の中の一種です。真菌はカビのことですが、特別珍しい菌ではなく、常在菌としてどんな犬の皮膚にも存在しています。普段は感染の症状を起こさない菌ですが、皮膚の免疫力が下がっていたり、傷がいくつもあったりすると、それをきっかけに爆発的に増え、悪さをし始めます。それがマラセチア皮膚炎です。
マラセチアが増える理由には環境の他にも、増えるほどたくさんのエサがあるからとも言えます。そのマラセチアのエサとなるものは、分泌される皮膚の脂なのです。この脂っぽさは他の犬種にも見られますので、なりやすい犬種がたくさんいます。
シーズー以外になりやすい犬種は
・フレンチブルドッグ
・パグ
・コッカースパニエル
・ウエストハイランドホワイトテリア
・柴犬
・ビーグル
・ボクサー
・ゴールデンレトリバー
・バセットハウンド
などと言われています。
なりやすいとされていない犬種でも、シニアになって症状が出る場合があります。これは年齢によって皮膚の免疫力が下がってくるためです。多頭飼いしている場合はシーズー以外の犬種であっても気を付けておくべきだと言えます。
マラセチア皮膚炎でもう一つネックとなるのが、ブドウ球菌の増殖です。スタフィロコッカスというブドウ球菌の一種は、マラセチアが増えると同時に増え始めます。この細菌は皮膚炎をさらに悪化させると言われていますので、どちらも数を減らして退治しなくてはなりません。治療では、どちらの菌にも効果のある薬用シャンプーを使用します。
主な症状です。
・激しいかゆみ
・脱毛
・皮膚が真っ赤に腫れる
・手や内股などをしきりに舐める
・皮膚が脂っぽくベタベタとなる
・皮膚が硬くなる
・足や皮膚を過剰に舐める
・大きめのフケが出る
・症状が重い部分は色素沈着する
マラセチア皮膚炎は全身に症状がみられますが、特に
・口の周り
・脇の下
・足の先の周り
・耳の周り
・足の付け根
・腹部
に多くみられます。
どの部分も濡れやすく蒸しやすい場所です。腹部は皮膚が柔らかく、毛も少ないため目で見て分かりやすい部分ですが、初期の症状は足の周りや口の周りなどに出てきますので、注意が必要でしょう。また耳に出た症状は「マラセチア外耳炎」足の周りや指の間に出た症状は「マラセチア指間炎」と呼ばれ区別されることもあります。しかし同じ菌であるため、同時に起こるのが一般的です。
原因菌は真菌である「マラセチア」ですが、マラセチアは常在菌であるため、菌がいるからといってすぐに症状が出るというわけではありません。マラセチアには悪さを始めるきっかけがいくつかあります。
①湿度が高い時期
日本では梅雨から夏の時期がじっとりと蒸し暑く、高温多湿になりやすい時期です。この環境こそが、マラセチアの増えやすい条件となりますので、6月から8月にかけては要注意となります。マラセチアが原因の症状で治療をおこなう犬も、冬の2倍以上に増えると言われています。特にシーズーは湿気が毛の中にこもりやすい体質ですので、エアコンでドライ設定にしたり、サマーカットをするなどして、早めにマラセチアが繁殖しにくい環境に整えましょう。
②脂っぽい分泌物
マラセチアのエサとなるのが、ベタベタする皮膚の分泌物です。触ると毛がなんとなくベタつく、以前よりも脂っぽくなった、そう感じたら、マラセチアの症状が出ていないかもチェックしましょう。この脂っぽい分泌物がマラセチアのエサとなりますので、このまま進行するとより皮膚炎の症状を起こしやすくなってしまいます。
③不衛生な環境
散歩から帰って足に土がついたままの寝床や、身体が濡れたままで過ごすことが多くなると、必然的に細菌に感染しやすくなります。土壌の真菌を寝床に持ち込んでしまうからです。特に雨の日に身体を乾かさないままでいたり、水遊びの後に完全に乾かさずにいると、湿度が高まるため、マラセチアにとっては繁殖しやすい環境になってしまいます。
マラセチア皮膚炎の検査は、脱毛やかゆみの原因が感染かどうか、感染であれば菌が何なのかを特定します。マラセチアは真菌であるため、抗真菌薬を使用するかどうかを決めるためです。もし抗真菌薬の効かない細菌が原因であればいつまでも治らないため、必ず特定を行います。
マラセチアの検査は、患部からフケや毛をセロハンテープではがし取り、それを顕微鏡で見て確認を行います。マラセチア菌もスタフィロコッカスも顕微鏡で見ることができますので、見つかり次第すぐに治療に入ります。基本的にはマラセチア菌の検出だけで良いのですが、皮膚の免疫力が下がっている場合は複数の細菌に感染している可能性もありますので、幅広く感染源を探ることになります。
〇薬用シャンプーによる薬浴
全身症状の場合は、薬浴が効果的です。薬浴とは薬用シャンプーを用いて、余分な皮膚の脂分やフケを落とし、薬用成分で皮膚を浸すことで皮膚から薬を浸透させる方法です。皮膚表面の増えすぎた菌を減らし、べたべたした脂を洗い流す効果があります。マラセチア菌と同時に増えるスタフィロコッカスというブドウ球菌を一緒に落とし減らす薬用成分が含まれていますので、短期間で効果が出ます。飲み薬と一緒に使用するのが一般的です。
シーズーは特に、顔を含め全身の毛が長くなる犬種なので、先に毛をカットして患部を確認しながら治療を行います。薬浴の際に浸透しやすくなりますので、毛のカットは必須となります。大き目のフケが出ることが多いため、毛の絡まりを防ぐこともできます。治療後は健康な毛が生えてきますので、パサパサした毛を伸ばしておくよりも、最初にバッサリと切ってしまった方がその後の美しさを保てるでしょう。
〇飲み薬の使用
マラセチアの数を減らすための抗真菌薬で治療する方法です。軽度の場合は薬用シャンプーだけで治療できますが、治療期間が長い場合は内服薬を併用することもあります。すでに他の治療のために飲み薬を使用している場合は一度動物病院に申し出ましょう。
〇塗り薬の使用
皮膚病の薬はステロイドが有名ですが、ステロイド剤は内臓に負担がかかってしまうため、必ずしも使用するとは限りません。現在では抗真菌ローションや軟膏など、様々な治療薬が出ていますので、ステロイド剤を使用しなくても十分に治療可能です。
なお薬浴と同様に、患部は毛をカットしておいたほうが、直接皮膚に浸透しやすくなります。患部を清潔な状態にしてから塗り込んで使用します。
〇フードの改善
治療の際に動物病院から、皮膚が脂っぽくなりにくいプレミアムフードに変更するよう、指導される場合があります。これはプレミアムフードでない場合は特に重要です。良質の油を適量摂取していない場合、また油分を多量に摂取している場合は、毛艶や皮膚の状態が不健康になる場合があるのです。他にも耳垢や歯の状態、内臓の健康なども関係します。
犬の食餌は治療の一環と考えられていますので、正しい食餌をすることで、被毛の状態を改善し、分泌物を正常化していきます。
〇サプリメントの併用
かゆみの大半がおさまっても、部分的に舐めてしまう場合は、さらにサプリメントで皮膚の機能を強化すると、しっかりと症状がおさまり犬も気にしなくなります。クセのように舐め続けているとまた皮膚が悪化しますので、サプリメントを併用するのも良い方法です。皮膚科専門医であれば処方される場合もありますが、市販のサプリメントでももちろん効果があります。獣医師にアドバイスを求めても良いでしょう。
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マラセチア皮膚炎は再発しやすい皮膚病です。マラセチア菌は本来健康な犬の皮膚には必ず存在する常在菌ですから、けしていなくなることはありません。発症したことがない犬なら環境作りを、発症の経験があるなら再発防止を徹底しておこないましょう。
〇食餌を改善する
良質なプレミアムフードに変更して、皮膚が脂っぽくなりにくくします。正しい食餌は見た目や被毛の艶だけでなく、内臓が健康になるため免疫力も上がり、皮膚のバリア機能も整うため、皮膚のトラブルになりにくくなります。食餌で改善するものはたくさんありますので、今後の健康のためにも食餌を見直しましょう。
〇環境を清潔に保つ
マラセチアはカビの一種であることから、予防にはカビの繁殖しにくい環境作りが大切です。湿気や汚れの溜まらない環境が重要で、身体が濡れている時は湿気と汚れを持ち込まないよう、きれいにふき取って寝床で過ごさせましょう。なるべく乾燥した状態で保てるよう、布製品は洗濯して乾かし、適度に買い替えると効果的です。
〇定期的なトリミング・グルーミング
定期的なシャンプーは被毛や皮膚を清潔に保つためには大切なことですが、それだけでなく、プロの目で皮膚の状態をチェックしてもらうことが大事です。家でのお手入れは欠かせないものですが、毎日見ていると正しい方法かどうかが分からなくなることもあります。プロの目を通して定期的にチェックしてもらうことで、お手入れの方法も指導してもらうことができるでしょう。
マラセチア皮膚炎はシーズーのなりやすい病気の代表的なものと言えます。特に時期によって爆発的に増える菌ですので、日頃からお手入れを習慣化し、しっかりと予防に努めましょう。そして少しでも舐めたり痒がる様子があれば、すぐに動物病院に相談してください。
執筆者:大柴淑子(おおしばしゅくこ)
webライターで元動物看護士・ペットアドバイザー。
専門記事は犬猫から魚類・昆虫まで!楽しいペットライフのための、分かりやすくためになる記事を書いていきます。
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