獣医師執筆
執筆者:増田国充先生
獣医師、ますだ動物クリニック院長
人間では超高齢化社会を迎えています。動物の世界においても、獣医療の向上に20年前と比べて大幅に寿命が延びました。それに伴い、これまであまり見かけなかった病気が増加してきました。その代表的なものが腫瘍です。腫瘍がとりわけ発生しやすい犬種もあります。この腫瘍ですが、いったいどのようなものなのでしょうか?
我々を含めて、動物は細胞の塊です。諸説ありますが人間で30~60兆個の細胞から構成されているといわれています。それよりも体が小さい犬や猫であっても兆という単位の細胞数であることが想像できます。これらの細胞は日々世代交代を繰り返しています。世代交代をする際に、細胞分裂をすることでコピーの細胞を作り出します。
一方、個々の細胞には遺伝子が存在します。具体的には、DNAに遺伝情報が書き込まれています。細胞が分裂する際にこのDNAの情報が正確にコピーされ続けることで、細胞の質、量ともにバランスを取り続けているのです。
実は時折このDNAが何らかの要因で損傷し、その遺伝情報に変化を及ぼすことがあります。DNAの構造に影響を与える要因として、紫外線、一部の化学物質(発がん性物質)などがあります。損傷したDNAは遺伝情報に悪影響を及ぼす場合がありますが、初期あるいは軽度であれば自己修復が可能です。わずかながらもエラーの生じた細胞はそれを増殖させないようにするための安全装置が作動しているため、「変な細胞」は増えないようになっています。
ところが、この変な細胞を増殖する抑制が働かず無秩序に細胞が増殖し続ける状態を、腫瘍化といいます。
先ほども説明しましたが、比較的軽いDNAの損傷であればエラーに対して修復をすることが出来ますが、遺伝子への損傷は長い時間をかけて表面化することもあります。つまり、高齢になるほど、DNAの損傷度合いが必然的に大きくなっていくわけです。一般に腫瘍は中高齢になると多発しますが、このような理由によるところが大きいと考えられます。
これまでの部分をパソコンとデータに例えてみましょう。
パソコンには動画や静止画を保存したり、いろいろなプログラムを実行するためのデータが含まれています。これらのデータが何の変化もなくきちんと保存されていれば、正常な動作を行うことが出来ます。
このパソコンにお茶をこぼしたり、高いところから落とした、さらにはパソコン本体にかなり負担をかける使い方をすると、本体に保存されていたデータに破損が起こり、パソコンが起動しなくなったり、いきなりプログラムが暴走するといったことが生じます。これが腫瘍やがんが生じた結果と似ているものと考えられます。
話が変わって、ここでは免疫というものについて簡単に解説していきます。私たちは、常に外部から様々な刺激を受けています。それらは体にとって有益なものもありますが、病原体や有害な物質などに直接触れるほか口から摂取してしまうことがあります。
この有害なものが全身に大きな影響を及ぼす前にやっつけて体内に取り入れないようにする機能が、免疫といわれるものです。
この免疫には大きく分けて2段階の防御方法があります。
まず、第1段階としてからだに対して部外者あるいは有害なものとみなしたものを監視して、これらが侵入してきた際に真っ先に攻撃を加えてその影響を最小限に食い止める「自然免疫」といわれるものがあります。おうちに不審者が入ってきた場合に、おまわりさんが現場に急行して不審者を捕まえる方法に似ています。
おまわりさんやガードマンさんの力で不審者の排除にすんなり成功すれば一番良いのですが、相手が手ごわい場合、あるいは同じ不審者が同じ手順で侵入を図ろうとした場合、より強力な方法で撃退する仕組みがあります。これを「獲得免疫」と呼びます。
この獲得免疫は、相手の特徴を記憶して、その相手を強力な手段で撃退する「抗体」を作り出すほか、不審者をやっつける特殊部隊ともいえるT細胞といわれる細胞で武装します。こうすることによって、細菌やウイルス、はては腫瘍細胞といった本来の体の機能を妨げるものを発見排除するために機能しているのです。
では腫瘍やがん細胞が存在する際に具体的に「免疫」はどのように働くのでしょうか?
先ほど、免疫には「自然免疫」と「獲得免疫」に2段階の機能が備わっていると説明しましたが。第一段階として腫瘍細胞にも他の病原体と同じように自然免疫による働きで好中球といわれる白血球、NK細胞、マクロファージといった細胞が腫瘍細胞に対峙します。
この時に相手の特徴を記憶するために樹状細胞が特徴を記憶し、以後同じ細胞が侵入してきたときのために情報を保持し、獲得免疫が発動できるように準備をしておきます。樹状細胞が得た情報をリンパ球という白血球に伝達し、その中のB細胞というリンパ球は抗体を作り、T細胞はその強力な戦闘力でがん細胞壊滅させようと働きます。
この機能が強ければ強いほど、腫瘍化して本来の機能が破綻して無秩序な増殖を試みようとする細胞群を増殖させないように防衛しているのです。
ところが、腫瘍細胞もなんとかして自身の勢力を拡大させようとします。腫瘍細胞が増殖するうえで天敵となる免疫に関連した機能を上手に欺こうとします。
特に腫瘍細胞を発見し攻撃を加えるT細胞に対し、腫瘍細胞自身を発見されにくくするため抗原といわれる標識を隠すほか、T細胞自身の攻撃性を妨げる物質を分泌するなどして「かく乱作戦」を実行します。
腫瘍細胞が攻撃される機会を失われるということは、これらの細胞が増殖をしてしまうことを意味します。正常な細胞よりも増殖力が旺盛なため、短期間で腫瘍が拡大することとなるのです。
しかもこの増殖速度が早いことによって、細胞としては未熟な状態であるものも多数発生します。未熟な細胞の状態を「低分化」とよび、一般に低分化な細胞が多いほど悪性度が高いとされます。
腫瘍には、発生部位や由来などによって悪性度の強さ、転移のしやすさなどが異なります。また、その治療方法も原因となる腫瘍細胞の性質に合わせたものを選択します。
例えば、皮膚の腫瘍であっても「肥満細胞腫」といわれるものであれば、転移や周辺の正常な組織の中に腫瘍細胞が潜り込みやすい性質を持っているため、外科手術で広い範囲の切除をしなければならないほか、必要に応じ一般に抗がん剤と呼ばれる化学療法を行うことがあります。
がんの治療を行う上で治療方法は多種多様ですが、原則は以下の通りです
・可能な限り腫瘍細胞を取り除く
これは、外科手術による完全な摘出を指します。リンパ腫のような外科手術が適用とならない場合であっても、抗がん剤を使用することで腫瘍細胞の撲滅を図ります。また放射線療法によって腫瘍細胞に照準を合わせて治療を行う方法もあります。近年は獣医療でも放射線治療を行うことのできる機関が増えてきました。
・完全除去が出来ない場合は増量増殖させない
腫瘍細胞の大きさや発生部位などによってがんの完全切除が困難となる場合があります。その際極力問題となる部位を切除し、残っている部分(残っているかもしれない部分)に対し、抗がん剤や放射線療法を合わせて実施することがあります。
・腫瘍の増殖を起こしにくい土台を作る
近年がん治療で注目を浴びているのが免疫療法です。ただし、この免疫療法も時代とともに著しい進歩を遂げています。例えば、サイトカインといわれる生理活性物質を投与することで免疫力を上げる方法や、自身のリンパ球に腫瘍を攻撃できる状態に活性化したものを体内に戻して腫瘍に対峙する活性化リンパ球療法があります。
最新のものでは、がんの免疫機能に大きな役割を担う樹状細胞にがんを認識させ、この情報をもとにリンパ球に的確な攻撃を行えるようにする樹状細胞ワクチン療法といわれる方法が開発されています。獣医療でも今後大きく発展する分野の一つとして期待されています。
実際には、上記のような医療はまだ一般に広く普及しているとは言えないのが現状で、一部の専門的な知識や経験のある施設で先進的に行われているという印象です。
では、腫瘍に対する免疫力を向上させる方法は何かないのでしょうか?実は、一部のサプリメントには腫瘍の増殖を抑制する作用が期待できる成分を含んでいるものがあります。
主にキノコ類に含まれる多糖類の中に、腫瘍免疫を増強する働きがあることが科学的に検証されました。代表的なものとして、β-グルカンと呼ばれる成分が挙げられます。
このβ-グルカンは、免疫機能に関与する樹状細胞やマクロファージと呼ばれる細胞を活性化する働きを有します。また、腫瘍細胞のアポトーシス(細胞の自殺)を誘導することが実験から明らかになりました。
このように、サプリメントであっても腫瘍に対し免疫の面から働き掛けを行い、増殖を抑制させることができるものがあります。
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以上のことから、年齢が上がると細胞中の遺伝子にエラーが生じやすくなり、それによって腫瘍細胞が出現しやすくなります。十分な免疫力を持ち合わせていれば、遺伝子のエラーによって発生した腫瘍細胞の大増殖を早い段階で阻止できるので、結果として目に見える形でのがんの発生に至る確率を下げることが出来るといわれます。
では、具体的に免疫力を高めていくためにどのようなことを心がけておけばよいのでしょうか?
体温を高めに維持することが方法の一つとして挙げられます。といっても、高体温や熱中症の状態にしなければいけないということではありません。ヒトでは体温が1℃下がると、免疫力が3割低下するといわれます。動物の場合、は平熱が38℃台となっていますが、適度な運動を定期的に行うことがポイントです。ワンちゃんであればお散歩は絶好の機会となるでしょう。
食事のバランスも重要です。1日に必要とする栄養をバランスよく取り込むことで、細胞の疲労が生じにくくなり代謝が一定の水準を維持します。また、食事に合わせて免疫力のある食材やサプリメントを摂取することも良い方法の一つとなります。
極度のストレスを避け、睡眠をしっかりとることも重要です。過剰な緊張状態は免疫活動に制御がかかることがあります。逆に睡眠時にこれらの働きが活性化されます。
これらのことをまとめると、
・適度な運動
・質の良い食事
・リラックスと安眠
という一見何気ない普段の生活の質を向上させるということが、巡り巡って腫瘍の発生リスクを高めないということにつながっているといっても過言ではありません。
執筆者
増田国充先生
獣医師、ますだ動物クリニック院長
経歴
2001年北里大学獣医学部獣医学科卒業、獣医師免許取得
2001~2007 名古屋市、および静岡県内の動物病院で勤務
2007年ますだ動物クリニック開院
所属学術団体
比較統合医療学会、日本獣医がん学会、日本獣医循環器学会、日本獣医再生医療学会、(公社)静岡県獣医師会、災害動物医療研究会認定VMAT、日本メディカルアロマテラピー協会認定アニマルアロマテラピスト、日本ペットマッサージ協会理事、ペット薬膳国際協会理事、日本伝統獣医学会主催第4回小動物臨床鍼灸学コース修了、専門学校ルネサンス・ペット・アカデミー非常勤講師、JTCVM国際中獣医学院日本校認定講師兼事務局長、JPCM日本ペット中医学研究会認定中医学アドバイザー、AHIOアニマル国際ハーブボール協会顧問、中国伝統獣医学国際培訓研究センター客員研究員
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