動物看護士(元)執筆
執筆者:大柴淑子(おおしばしゅくこ)
元動物看護士・ペットアドバイザー
犬の病気の中で、動物病院にかかる最も多い病気の種類は何だか知っていますか?答えは「皮膚疾患」です。
皮膚疾患は時期によってかかりやすさが変わってきますが、時代によっても多くなると言われます。それは、皮膚疾患になりやすい犬種が流行すると、診療も必然的に増えるから。
その代表例がチワワのマラセチア皮膚炎ではないでしょうか。
マラセチア皮膚炎の原因であるマラセチア菌は犬の常在菌であり、犬であればどの個体でも存在する菌です。しかしテレビの影響などでチワワが爆発的に流行してからは、マラセチア皮膚炎で動物病院にかかるチワワの割合も増えてきました。
チワワにとっては宿命とも言える病気なのかもしれません。
マラセチア皮膚炎の原因であるマラセチア菌は、真菌の一種の「酵母菌」と呼ばれる菌です。真菌とはカビの一種であり、私たち人間の生活にもなじみがありますが、犬や猫の身体にも常在している菌のひとつです。
皮膚の常在菌であるがゆえに、完全に殺菌することはできません。またしなくてはならない、ということもありません。
マラセチア菌が悪さをする時は、その数が爆発的に増えた時です。増えなければ症状は出ないのですが、増えてしまった時は数を減らし、増えにくくする対策をしなければなりません。
マラセチア菌が増える条件は
①弱アルカリ性の環境
②皮脂や脂質が増えた時
というもの。
特に皮脂がマラセチア菌のエサとなるため、シャンプーや体質改善などで皮脂を減らさなければ爆発的に増えてしまいます。
そして増えることで次第に皮脂に悪影響を及ぼし始めます。最終的に皮膚のバリア機能を壊して、フケやかゆみ、乾燥などの様々な症状を起こしていきます。
好発部位は以下の場所です。
・口の周り
・耳
・鼻の周り
・指間
・わきの下
・内また
・お腹
皮膚炎が全身に広がってしまう場合は、特に顔と皮膚の柔らかい部分に多く症状が出てきます。かゆみがあるため足先でばりばりと掻きむしり、そのために足先に菌が移り、その足で全身を掻いて徐々に広がっていきます。
チワワ以外になりやすいとされる犬種は
・ダックスフント
・コッカースパニエル
・シーズー
・ウエストハイランドホワイトテリア
・ビーグル
・ミニチュアシュナウザー
・フレンチブルドッグ
・パグ
と言われています。
体質的に脂っぽい皮膚の犬種や、シワが多く菌が溜まりやすい犬種は、感染性の皮膚炎になりやすいので要注意でしょう。
チワワも含め、被毛を定期的にカットしたり、ブラッシングの時に細かくチェックするなど、早期発見につながるよう習慣づけることが大切です。
主な症状です。
・激しいかゆみ
・大きめのフケ
・脱毛
・脂漏症(皮膚が脂っぽくなる)
・皮膚がカサカサと乾燥する
・被毛がガサガサになり艶がなくなる
・真っ赤に腫れる
・悪化すると皮膚が色素沈着する
・マラセチア外耳炎、マラセチア指間炎を引き起こす
「かゆみ」が一番大きな症状ですが、次いで脱毛やフケ、赤みなども現れます。かゆみだけで判断するのは難しい皮膚病ですので、何が原因となっているのか検査をするまで、自己判断の治療は避けましょう。
これらの症状を放置し悪化させて重症化すると、アレルギー性皮膚炎を引き起こしてしまいます。マラセチア皮膚炎とは本来別の病気であったはずのアレルギー性皮膚炎ですが、マラセチアによって皮膚のバリア機能が壊されると、皮膚本来の防御機能が弱まり、アレルギー性物質に対して過敏に反応してしまうのです。
またマラセチア菌が増えるとスタフィロコッカスというブドウ球菌も同じように増えてきます。このブドウ球菌が増えすぎると、膿皮症になりやすくなりますので、同時に減らさなければなりません。マラセチア皮膚炎になることで、他の皮膚の病気にもなりやすくなってしまうのです。
マラセチア皮膚炎は、マラセチア菌が皮膚で爆発的に増えたことが原因で発症します。ではどうして普段は正常数のマラセチア菌が増えてしまったのでしょうか。以下の原因が考えられます。
犬を撫でた時にベタっとした感触があった時は、マラセチア菌が増えているかもしれません。特にロングコートのチワワはベタベタしやすくなりますので、汚れだけでなく、マラセチア皮膚炎の症状が出ていないか必ず確認しましょう。放置するとマラセチア皮膚炎が進行してしまいます。
①のように、どうして皮膚の分泌物がベタベタしてしまうのかというと、体質の他に、食餌も大きな要因となります。嗜好性に偏ったフードやおやつは、トロリとした食感のものが多く、油分が必然的に多くなります。
こうしたものばかりを与えていると、皮脂を多く分泌するようになり、ベタつきの原因となります。このような皮脂をエサとするマラセチア菌にとって、とても住みやすく繁殖しやすい環境となるのです。
犬の好むものが正しい食餌とは限りません。特にチワワは食餌量が少ないため、心配でたくさん食べさせようと、人間の食べ物を与えてしまうこともあるでしょう。
誤った食餌による病気の原因となりますので、質の良い正しい食餌を与えてください。食餌は免疫力の低下にもつながりますので、皮膚への影響大なのです。
犬の中で最小であるチワワは、暑さや寒さにも弱いため、洋服を着せることもあるでしょう。しかし洋服を着ているがために、その下の被毛や皮膚のチェックを怠ってしまいがちです。皮膚トラブルに気付きにくくなってしまいますので、洋服を常時着せているなら被毛や皮膚のチェックを習慣にしましょう。
また洋服を着せることでマラセチア菌が溜まりやすくなります。汚れていなくても適度に洗濯をして交換しましょう。
洋服と同じように、クッションやベッドなどにもマラセチア菌が溜まりやすくなります。マラセチア菌は真菌ですから、カビと同じだと考えれば、風通しのよい環境が良いと分かります。湿気を溜めない環境で飼育しましょう。
マラセチアは顕微鏡で姿を確認することができます。かゆみや脱毛、独特の脂っぽい臭気など、マラセチア皮膚炎が疑われる場合は、菌を特定するための検査を行います。
セロテープで被毛やフケなどを取りそれを顕微鏡で観察する簡単な検査です。マラセチア菌はボーリングのピンのような特徴的な形をした菌であるため、容易に見つかります。痛みもなく時間もかからない検査ですので、犬にも負担はありません。
皮膚の免疫力が落ちていると他の病気にもかかりやすくなっています。他にも原因はないか、さまざまな検査をおこなって原因を突き止めていきます。
マラセチア皮膚炎と診断された場合は、以下の方法で治療をおこないます。一つだけでなく、目的に合わせて総合的に治療していきます。
①薬用シャンプー
抗真菌剤の入ったシャンプーを使い、皮膚を数分浸して薬効を得る「薬浸」を行う治療方法です。ロングコートの場合は使用前に毛をカットして行います。皮膚に増えた余分な皮脂とマラセチア菌、ブドウ球菌を洗い流して落とします。
直接的な治療となるため効果も早く絶大です。軽度の場合はこの方法だけでも治療ができますが、塗り薬や飲み薬との併用が一般的です。定期的に使用しますが、症状が治まった後も再発防止のために使う場合もあります。
薬用シャンプーは「ミコナゾール」や「クロルヘキシジン」といった殺菌剤が含まれていますが、動物病院での処方以外にも、ペットショップや専門店でも市販されています。
②塗り薬
抗真菌剤の入った軟膏やクリームを塗って治療を行います。特に腫れている部分や発疹の部分、フケの多い部分に直接塗布して使用します。患部の毛をカットして使用したほうが塗り薬の効果がしっかり出ますので、治療中は思い切ってカットしましょう。症状を落ち着かせた後に生えた毛のほうが美しく健康的です。
③飲み薬
ケトコナゾールという抗真菌剤の入った内服薬を使って治療をします。症状が重度の場合や、全身に広がっている場合、外耳炎や指間炎が同時におこっている場合は、内服薬のほうが全身に効果を発揮できます。薬用シャンプーと併用する事が多いですが、使用しない場合もあります。
④その他
薬品を使用しての治療の他に、食餌や生活環境の改善なども指導される場合があります。マラセチア皮膚炎は特に夏場の診療数が格段に多いため、高温多湿を避けるように言われることがあります。犬が長く過ごす場所は、風通しが良く乾燥している状態が望ましいでしょう。湿気を減らしてなるべく菌が溜まらない環境にしておくことが大切です。
予防法はさまざまありますが、マラセチア菌が常在菌であるため、一度かかった犬は再発しやすい病気です。そうした場合はいかに普段から再発防止を意識して過ごせるかがポイントです。
治療に使用した薬用シャンプーを定期的に使用し、再発防止を行います。トリミングルームでトリマーに見てもらい、脂っぽい皮脂が増えている場合は細菌が増えないように使用を勧められることもあります。一度マラセチア皮膚炎を起こしているなら、再発防止のためにも使用を考えましょう。
脂っぽい皮脂がマラセチア菌のエサとなることから、体質改善のために食餌を変えたほうが良い場合もあります。プレミアムフードの利用が基本となりますが、皮膚疾患対策用などがあれば、専門店などに相談して選んでもらいましょう。食餌が適切なものになれば、毛艶や口臭、体臭などが劇的に変わっていきます。
マラセチア菌や湿気が布に溜まらないように、定期的に洗濯をしたり、買い替えたほうが安全です。これはもちろんマラセチア菌に限りません。衛生管理をしっかり行いましょう。
③と同様に、マラセチア菌の好む高温多湿環境を避けて、適切な環境を作りましょう。ペット用の殺菌作用のあるクリーナーなどで拭き掃除を行うと、床に溜まった菌を取り除けて効果的です。
洋服を着ていると皮膚の状態がすぐに見えません。同じようにロングコートの場合もお腹や脇の下などのチェックがしにくくなりますので、毎日のブラッシングや歯磨きの時に皮膚チェックも行ってみましょう。習慣化すると犬も嫌がりません。
マメに皮膚チェックをしていても、毎日見ていると基準が甘くなりがちです。定期的に動物病院やトリミングルームに通い、プロの目で見て判断してもらいましょう。動物病院であれば少しの兆候も見逃しません。意識して過ごすことで皮膚炎の早期発見につなげましょう。
チワワは飼い主の近くで過ごすことの多い超小型犬です。洋服を着ていることが多いため皮膚のチェックをしないまま過ごすこともありますが、臭気やかゆみなどは意識していれば早期発見できる犬種でもあります。
毎日同じ時間にチェックを行い、健康チェックを習慣化してみましょう。そして少しでも違和感を感じたら、すぐに動物病院へ相談してください。
執筆者:大柴淑子(おおしばしゅくこ)
webライターで元動物看護士・ペットアドバイザー。
専門記事は犬猫から魚類・昆虫まで!楽しいペットライフのための、分かりやすくためになる記事を書いていきます。
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