愛玩動物飼養管理士執筆
愛玩動物飼養管理士
青山ケンネルスクール認定 A級トリマー
大谷幸代先生
気が付けばいつも足先を舐めている、足先の毛を引き抜いてしまうことがある、耳を頻繁に掻く・・・愛犬の行動で思い当たることはありませんか?
ミニチュアシュナウザーは本来飼い主にとても従順で賢い性格です。感情的になったり、無暗に家族に強硬な態度を示すことはありません。にも拘わらず愛犬がこのような態度を見せるということは、実は足先や耳に痛みや辛い症状を抱えていることもあり得ます。
愛犬に起こりがちな皮膚トラブルの原因と対策を理解しておいてあげましょう。
マラセチア皮膚炎とはミニチュアシュナウザーのように足先の被毛が長く伸びる犬種や垂れ耳の犬に多くみられる症状です。
人間で言えば、ニキビ、皮膚炎よく似ています。ただ犬の足先は人間の指に比べ、指同士の隙間が狭く密着しています。その上体の中で唯一足裏だけに汗腺があり、汗もかきます。
同様に垂れた耳は通気性が悪く、湿気がこもりがちです。ミニチュアシュナウザーは本来とても活発で、我慢強い性格でもあり、多少の痛みはぐっとこらえてしまいがちです。
そのため家族はまるで異変に気が付かなかった、噛みつき癖はたんなるしつけの問題だと勘違いしていたことが起こりがちです。
マラセチア皮膚炎はたとえ定期的にトリミングを利用し、清潔を維持している室内生活の場合でも無縁ではありません。それぞれの体質や生活によって、若いうちでも発症します。
もし愛犬がこれまでと違う行動を見せたり、足先を過度に気にする、耳を掻く、頭を振るなどの素振りを見せた時は、まずは動物病院を受診してあげましょう。
マラセチア皮膚炎が起こる原因は、患部に雑菌が繁殖し、皮膚がダメージを受けるからです。
比較的発症が多い場面は
・生後間もない時期
・高齢になってから
・散歩後に足洗いを習慣にしている場合
・自宅でシャンプーやトリミングを行っている場合
・週に数回の耳掃除を怠っている場合
です。
生後間もない時期の発症は、繁殖された環境が不衛生だったことが大きく関係しています。今や多くのペットショップは衛生的な環境が整っていますが、その前段階にあるブリーダーの飼育環境は必ずしも理想的ではありません。まだ免疫力の弱い子犬の皮膚が雑菌やカビによるダメージを受けてしまうことも考えられます。
次に多いのは高齢になってからです。ミニチュアシュナウザーは犬種の特性として、皮脂の分泌が過剰になりがちです。被毛の根元がべたついていたり、何度も外耳炎を発症してしまうのは、そのためです。
高齢になり免疫力が低下すると、過剰な皮脂と雑菌が混ざり合い、皮膚に様々なダメージをもたらします。ただこれは加齢による変化でもあり、治療だけでは解決できないことも多々あります。お洒落なヘアスタイルが印象的な犬種ではありますが、高齢になってからは被毛を短く切り、生活のしやすさを重視してあげましょう。
まだ若く健康なうちにマラセチア皮膚炎を発症するケースの多くは、日々のお手入れの間違えに関係しています。散歩から戻った後、水道で足先を洗ったり、湿ったタオルで拭き上げていませんか?
自宅でシャンプーをした時、足裏や指の間の被毛まで完璧に乾燥させていますか?耳の中の水分もしっかりと拭き取っていますか?
この点を怠ってしまっている場合、湿り気を帯びた被毛は愛犬の体温が後押しとなり、カビの温床になっています。その結果、薄い皮膚は炎症を起こし、かゆみや痛みを発症します。
犬の足裏はサラサラとしていて、散歩で屋外を歩いたからといって、さほど汚れはしません。乾いた布で拭き上げる程度で十分です。自宅でシャンプーをするときは、足の指の隙間にまで目を配り乾燥させなければなりません。耳の中も同様です。
ミニチュアシュナウザー同様にマラセチア皮膚炎を発症しやすい犬種達は以下です。
・アメリカンコッカー
・シーズー
・プードル
・キャバリア
・ウエストハイランドホワイトテリア
いずれもミニチュアシュナウザー同様に皮脂の分泌が過剰になりがちな犬種です。
そのうえ、散歩後に足先を洗う、濡らすことで乾きにくい、生乾きになる点もよく似ています。垂れた耳もよく似ています。
中にはこれらの犬種は生まれつき皮膚が弱いという声もあります。ならばこそ、日ごろのお手入れは足指の間にまで目を配ってあげましょう。
マラセチア皮膚炎を発症した場合、治療法は
の3つを同時進行で進めます。基本的には飲み薬を服用し、体の中から菌を死滅させるよう働きかけます。ミニチュアシュナウザーはとても食欲が旺盛なので、食事に飲み薬を混ぜ与えても、気にせずに食べてくれるでしょう。もし薬を嫌がる場合は、チーズなど臭いの強い食べ物に混ぜ与えるとスムーズです。
次に患部の炎症や他への転移を防ぎます。この時、患部に直接塗る薬が処方されることがあります。ただ症状によっては患部に触れられる事を過度に嫌がることもあるので、無理のないよう進めてゆきましょう。塗り薬が難しい場合は、飲み薬に切り替え対処することも可能です。
マラセチア皮膚炎を発症すると患部にかゆみや痛み、軽度の出血がみられることがあります。愛犬自身も頻繁に患部を気にする素振りを見せるでしょう。ただだからといって患部を自分で舐めてしまうと、湿り気を帯び、ますます雑菌の繁殖が進む一方です。
中にはその刺激で傷が深くなってしまうこともあります。患部が完全に乾燥し、愛犬が気にする素振りを見せなくなるまでは、エリザベスカラーを着用させておくと安心です。
マラセチア皮膚炎を発症したことに気が付いた時は、完治まで患部を出来る限り刺激しないよう心掛けましょう。
散歩後のお手入れはもちろんのこと、シャンプーもです。
犬にとって足先は急所です。痛覚があり大変デリケートな部位です。ただでさえ痛みやかゆみを抱えているのですから、家族が無暗に触ることで、過剰な反応を示すこともあるでしょう。
完治するまでは
・トリミングは専門家に任せる
・トリミングショップを利用する時は、事前に足先の状態を伝えておく
・決められた薬は必ず容量を守り与える
・凹凸のある散歩道は避ける
という点を心掛けてあげましょう。
塗り薬をつけやすくするため、診察のためにと足先にバリカンを施したい場合は、自宅で行わずに必ず獣医師、トリマーに依頼をしましょう。バリカンの熱や刃先が患部を刺激すると、突発的な行動に出ることもあり大変危険です。
ココロちゃんは3歳になるミニチュアシュナウザーの女の子です。真っ白な被毛が自慢のお洒落好きなワンちゃんです。ただココロちゃんは日ごろ留守番時間が長く、8時間近くも毎日ケージの中で過ごしています。そのためか自身の足先を舐める癖がついてしまい、気が付けば足先の被毛は唾液で汚れ茶色に変色しています。
トリミングに訪れるたびに、茶色の毛先を切りそろえ、目立たないようにと工夫はするものの、なかなか解決には至っていませんでした。
その後次第に症状は悪化し、気が付けば足先に触れるだけで、激しく噛みつくことも増えました。困り果てたご家族がしつけ教室に足を運んだところ、足先を舐める原因が寂しさや退屈からくるストレスであること。
その結果、足先の皮膚は赤くただれ、炎症を起こしていることが指摘されたそうです。その後はまず治療を優先するために患部を短く切りそろえ、薬の浸透がスムーズになるように工夫をし、生活スタイルも徐々に見直しているそうです。すべてを一気に解決することは難しい課題ですが、まずは治療が始まったことが何よりでしょう。
ミニチュアシュナウザーは本来狩猟の場で活躍するべき犬種です。ペットとして暮らす中で、様々な皮膚トラブルが目立つようになった背景には過度な人間の干渉も関係しています。
マラセチア皮膚炎の対策には
・足先は必要以上に濡らさない、濡れた、湿った時はきちんと乾燥させる
・足先を舐める、頻繁に耳を掻く行動はSOSのサイン エリザベスカラー着用で保護
・適度な運動と適量の食事、年齢にあったサプリメントの活用で自己免疫の強化を手伝ってあげましょう
【大谷幸代先生】
愛玩動物飼養管理士
青山ケンネルスクール認定 A級トリマー メディカルトリマー
学生時代にイギリスへドッグトレーニングの勉強のため、短期留学。その後、ペットショップ販売員、トリマー、ドッグトレーナー、ペットシッターなど様々な仕事を経験してきた。
ホリスティックケアアドバイザーや日本アロマテラピー協会認定アロマテラピーインストラクターなどの資格も取得。ペット関連用品の開発、雑誌などへのコラム執筆を手がけるなど、【犬を飼う生活から、犬と暮らす生活へ】の実現をめざし、幅広く活躍している。
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