獣医師執筆
執筆者:増田国充先生
獣医師、ますだ動物クリニック院長
脂肪肝という病気をご存知でしょうか?あまりなじみのない病気と考えがちですが、実は人間では生活習慣病の一つに数えられるほか、猫の場合でも発症するリスクを持ち合わせていることが多いといわれます。
脂肪肝は、別名「肝リピドーシス」とも呼ばれることのある病気で、その名の通り肝臓に脂肪がたまってしまう状態を示します。世界三大珍味にひとつにフォアグラがありますが、これはガチョウの肝臓を人為的に脂肪肝の状態にしたものといわれ、昨今、動物愛護的な面で議論に挙げることがあります。
脂肪肝となった肝臓は、肝細胞に脂肪を多く貯めこんでしまったために、本来の肝臓の仕事が大きく制限を受けます。その結果、肝臓の機能が低下します。人間では肝硬変や肝臓がんに移行する可能性が指摘されており大きな問題となっています。
筆者も猫の健康診断の一環でおなかのエコー検査を行っているときに発見することがしばしばあります。初期の脂肪肝の場合、見た目上変化が起こらないことがあり、発見が遅れることがあります。後程詳しく紹介しますが、発症してしまうと治療を行わない場合は肝臓の機能不全に至り死亡します。猫で肝臓に関連した病気の中でもとりわけ重い症状となることもある非常に厄介なものなのです。
脂肪肝になる原因には、大きく分けて2つあります。食欲の低下を伴わず、さらに持病を持ち合わせていない状態から突然発症するタイプと、食欲の低下と栄養を体内に取り込む過程が障害された状態から生じる「続発性脂肪肝」と呼ばれるものに分けられます。
このうち後者は、脂肪肝と診断されたもののおよそ8割以上を占めるといわれています。また、他の病気と関連して発症する原因の中では、肝臓や胆のうの炎症、小腸やすい臓といった消化器の病気などが挙げられます。これらの病気に伴い急激な食欲低下が生じて栄養の供給が著しく制限されると、肝臓の細胞内に脂肪が取り込まれる動きが活発化します。
ただ、先ほど挙げた病気の存在がなければ脂肪肝にならない、というわけではありません。実は病気の有無に関連なく、何も食べない状態が3日以上続いた場合、猫の肝臓の細胞に脂肪が蓄積されるようになります。つまりそれまで健康であって全く食べない状態を3日続けてしまうことによって脂肪肝に至ってしまうリスクを猫は持ち合わせているということなのです。この傾向は肥満傾向にある猫でより顕著になります。
猫の脂肪肝は中高齢で多くみられますが、成猫ではどの年齢でも発症しうる病気です。この疾患の主な症状は、元気や食欲の低下、体重の減少といった他の病気にも共通する部分が多くみられます。そのため、原因の特定がしづらい部分があります。
しかし、病状が進行していくと、肝臓の機能低下による影響がはっきりと表れます。具体的には黄疸がみられ、歯茎や眼球、皮膚などが黄色くなります。これも悪化をしている場合、日に日に黄色の色合いが強くなっていくのがわかることがあります。下痢または便秘、吐き気がみられるほか、肝性脳症と呼ばれる脳神経系へのダメージによって、けいれんや昏睡などを起こし衰弱をしながら最終的に死に至ります。
そもそも脂肪肝に限らず肝臓の病気はある程度進行しないと不調が表に現れない「沈黙の臓器」とも呼ばれるため、脂肪肝の症状が目に見えるようになっているときには深刻な状態になっていると考えなければなりません。
この脂肪肝の診断には血液検査、おなかのレントゲン写真とエコー検査、さらに肝臓の細胞を確認するための組織検査が行われます。レントゲン写真では肝臓が大きく腫れていることが確認されます。脂肪肝は、肝臓に生じた脂肪肝以外の病気から発生する場合、肝臓以外の不調や病気から合併して生じる場合もありますので、他の病気の有無をしっかり確認しておきます。
脂肪肝と診断された場合、何らかの治療を行わなければ進行は免れません。しかもこの病気に対して特効薬と呼ばれるものはなく、食餌療法と肝臓の組織を正常な状態に戻すための点滴やお薬を使っていきます。特に重要となるのが食餌療法です。脂肪肝に至る過程で、長期の食欲不振が原因となっていることは先ほど説明しましたが、何らか食餌を摂らないとさらに肝臓に脂肪が蓄積してしまう悪循環となります。
そのため、食欲がない状態であっても栄養価の高い食事を与えなくてはいけないのです。動物医療の現場では「強制給餌」と呼ばれる方法を使用します。経鼻チューブや胃チューブといった直接胃に流動食を与えます。また必要とされるビタミンも同時に与えます。水分や電解質のバランスを整える必要がありますので、点滴も行います。要するに脂肪肝の治療初期は、多くの場合入院を必要として集中治療をすることとなります。
再発することは稀ですが、症状が安定し改善するまでに長い期間を要することもあり、この病気を患った猫ちゃんをはじめ、おうちの方にもケアや介護などさまざまな負担がかかることとなります。また、治療を行う上でストレスがなるべくかからないようにすることも重要です。
脂肪肝は、発症するといかにして進行を食い止めるかが重要となります。また、重症化することが多く、中には命を落とすことさえあります。また、その治療は改善させていくためには入院や、あるいは自宅療養を行う際にも徹底した食餌管理や投薬といった多くの制約がかかります。そのためにもおうちの猫ちゃんにはこの病気にならないように用心していただきたいことがあります。
全く食べない状態が3日以上続くと脂肪肝に至ることがあるという点が重要な要素の一つです。猫ちゃんは基本的にグルメですから、よりおいしいものを食べることに関心を示します。それ自体に悪いことはありませんが、食のバランスの乱れや偏食が時として、気が進まないと食べないという行動に結びついてしまうことがあります。
もう一つは肥満です。脂肪肝は肥満の猫で発症しやすい傾向にあります。犬の肥満と異なり、猫の場合は人間と生活してる環境で運動量を増やして減量することがなかなか大変です。犬の場合はお散歩や遊びの仕方でその加減がしやすいのですが、猫で十分な運動をさせる機会が得にくいため、食事の内容や量で調整を図る必要があります。かといって不適切な減量はかえって脂肪肝に至るリスクを挙げることにもつながりかねません。
個体に合った体格と理想体重を心得ておき、それに合わせた食餌量を与えてむらなく食べられるようにしていきたいところです。減量が必要な場合は、動物病院でアドバイスをもらい実践するのが良い方法でしょう。
猫の脂肪肝の直接的な原因は食事がうまく取れないことによって引き起こされる栄養不良状態です。食欲を常に安定させておくことというのは、簡単なようで意外と難しいものなのです。今日という日がまたとしてないのと同様、猫ちゃん自身、そしてその環境もわずかながらではあれ変化をしています。
環境の変化には季節的な要素以外に、引っ越しや家族の増減といった家庭環境によるものもあります。個体差はあるものの、これらの変化に体を合わせていかなくてはならず、十分に対応できないと消化の働きが低下するほか、からだの免疫力の低下を招くことになり、それが結果として病気につながっていくことがあります。とりわけ肥満体質の場合は、それだけで脂肪肝のリスクが上がります。
「脂肪肝に対しこれだけは注意しましょう」というよりは、普段の生活をより健康に過ごすことを実践することで、脂肪肝の予防対策にもなっているということです。そうなると、毎日栄養バランスの良い食事をし、程よい運動を行い、そして十分な体力を維持することが大事になってくるのではないでしょうか。健康維持の一助として、サプリメントを使用するのも一つの方法です。特に、免疫機能を良好な状態にしておくことは病気や感染症の予防という意味合いだけでなく、安定した栄養をバランスよく体に至る所にいきわたらせることにつながりますので、肝臓にも負担をかかりにくくなります。
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執筆者
増田国充先生
獣医師、ますだ動物クリニック院長
経歴
2001年北里大学獣医学部獣医学科卒業、獣医師免許取得
2001~2007 名古屋市、および静岡県内の動物病院で勤務
2007年ますだ動物クリニック開院
所属学術団体
比較統合医療学会、日本獣医がん学会、日本獣医循環器学会、日本獣医再生医療学会、(公社)静岡県獣医師会、災害動物医療研究会認定VMAT、日本メディカルアロマテラピー協会認定アニマルアロマテラピスト、日本ペットマッサージ協会理事、ペット薬膳国際協会理事、日本伝統獣医学会主催第4回小動物臨床鍼灸学コース修了、専門学校ルネサンス・ペット・アカデミー非常勤講師、JTCVM国際中獣医学院日本校認定講師兼事務局長、JPCM日本ペット中医学研究会認定中医学アドバイザー、AHIOアニマル国際ハーブボール協会顧問、中国伝統獣医学国際培訓研究センター客員研究員
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