動物看護士(元)執筆
執筆者:大柴淑子(おおしばしゅくこ)
元動物看護士・ペットアドバイザー
指間炎とは字のごとく、指の間に炎症が起きてしまう病気のことです。指自体や足の裏の肉球、足全体に起きるトラブルが元で発症します。犬にとって足は、素肌でありながら靴の役割も果たしている重要な身体の一部です。その場でじっとしていることが少ない犬にとって、常に外部に接触する足の裏は、身体の中では最もケガをしやすい部分だと言えます。
そんなリスクの多い足の裏の病気は、身体の末端であるがゆえに飼い主の目には届きにくい場所です。気が付いたら悪化していた、なんてことも。指間炎は、絶対に放っておいてはいけません。健康でないと誰もが困る足ですから、どんなことに気を付けて過ごしたら良いのか、環境に合わせて考えてみることが大切です。
シーズーの他に指間炎になりやすいとされる犬種は、以下のとおりです。
・ミニチュアダックス
・パグ
・ビーグル
・フレンチブルドッグ
・スパニエル種
・レトリーバー種
・柴犬
なりやすさに多少の違いはありますが、シーズーをはじめ上記以外のどんな犬にも指間炎を発症する可能性があります。なりやすいとされる犬種が多い病気ですが、これには2つ理由があります。
一つは「指間の毛が伸びすぎること」
これは長毛種の場合は特に、足の裏に汚れや異物を巻き込んでしまう原因となります。
もう一つは「脂っぽい被毛になりやすい体質」です。
皮膚のベタつきがある犬種は、その皮脂によって色々な菌に感染しやすくなります。これらの両方に該当する犬種は、指間炎になりやすい犬種と言われているのです。シーズーもまさになりやすい犬種と言えます。
指間炎の主な症状です。
・足の指が真っ赤に腫れる
・足の指の間にぷっくりとしたできものができる
・足の指から出血がある
・足の指から膿が出る
・足先からの脱毛
・足先からフケが出てくる
指の間が見えにくいために、初期の症状はほとんど飼い主の目には入りません。毎日丁寧にお手入れしていれば気が付くこともありますが、犬だけが感じる違和感は、人間の目からはなかなか気が付きにくいでしょう。症状を把握して、寝るべく早く気付くようにしておきましょう。
指間炎の始まりは「舐めること」
指間炎は足の周りを犬が舐め始めることで加速的に症状が広がる場合があります。そもそも舐めてしまうきっかけは何なのでしょうか。
犬にとって毛のお手入れは自分のメンテナンスのひとつです。可能な範囲を舐めてきれいに整えていますので、足の周りもお手入れ箇所として舐めてしまいます。これは動物として健康的な行動ですから、問題はありません。親が子を舐めて体調管理をするグルーミングと同じなのです。
犬は足の裏にしか汗腺がないため、汗をかく時は足の裏でかきます。もし暑い場合はお腹や足を冷やすように涼しい場所に移動します。このように、暑くて足の裏に汗をかいている時に、体を冷やそうとして足の裏を舐めることがあります。これは自分で健康管理を使用とする本能からの行動です。異常行動ではないため、問題はありません。
犬は同じ場所でじっとしている時や、飼い主が構ってくれずフラストレーションが溜まると、解消するための行動をとります。その一つが身体を舐める行動です。特にいつも目の前にある前足はその対象になりやすく、犬自身も意識なく舐めていることもあります。そのためストレスがなくなっても舐めるクセだけが残ってしまうこともあります。精神的な問題が原因ですから、いくらお手入れを完璧にしても解消されません。構ってあげる、遊んであげるという犬の気持ちを分かってあげることが解消のカギとなります。
足に何らかの問題が出たときに、気にしてしきりに舐める場合です。たとえば指の間に異物が入った時や、ケガをした時、やけどをした時、毛が絡まっている時などは、どうしても気にしてしまいます。またアレルギーやアトピー、かぶれ、栄養による違和感が、足の裏へ出てくることもあります。足回りは飼い主が気付かない小さなトラブルを起こす場合があり、解消されるまで犬は舐め続けてしまうのです。
これらのうち①や②は指間炎を引き起こすほどの原因にはなりません。しかし③や④は指間炎を引き起こす原因となるか、指間炎によってさらに舐めてしまっている可能性があります。違和感や異物感がぬぐえずに舐め続け、指間炎にまで発展させてしまう前に、お手入れをしたり、異常行動を観察することで足の周りの異常を早期発見できます。
治療に入る前に、自己判断で薬を塗ったりしないようにしましょう。検査してみるまでは、指間炎の原因が何からきているのかは分かりません。細菌感染なのかヤケドなのか、感染でもどの菌なのかが分からなければ、効果のない薬を使って傷に負担をかけてしまい、かえって悪化させてしまいます。
また処置を間違うと犬がさらに舐めてしまい、違和感を自力で解消しようとしてしまいます。必ず動物病院にみてもらい、獣医師の診断が出るまでは勝手な処置はしないようにしましょう。
指間炎の原因はさまざま。何が原因となったのか、まずは特定をしなくてはなりません。指間炎はマラセチア菌という真菌が原因で起こることもありますので、マラセチアが悪さをしているのかどうかを特定する顕微鏡検査をおこないます。セロテープで脱毛した被毛や皮膚の一部を張り付け、はがしたものを顕微鏡で観察します。特定されれば治療に入ります。
他にも菌が複数存在する場合や、デキモノのようにぷっくりと腫れていて合併している場合もありますので、他の症状も丁寧に見ます。環境要因が原因となっていることもありますので、大きな原因が見当たらない場合は生活習慣や食餌内容なども見直すことになるでしょう。
もし細菌や真菌が原因であれば、かゆみを取るための薬用シャンプーを使用します。増えすぎた菌や溜まったフケ、絡んだ汚れなどを一気に洗い流すことができるので、即効性を期待できます。
同時に軟膏や乳液状の塗り薬を使用して、皮膚の保湿や皮膚内部のバリアゾーンの保護をします。バリアゾーンは真皮の部分にあり、肌の免疫力と密接に関係しますので、肌を正常に戻しながら強化していきます。
飲み薬での治療もあります。主に抗真菌薬や抗炎症剤ですが、症状が重い時は併用することになるでしょう。どの治療を始めるにしても、まずは患部の毛をカットし、薬をダイレクトに効かせるために一時的にバリカンで毛を刈ってしまいましょう。普段は見えていなくても、皮膚の影響で毛が乾燥しぼそぼそになっていることが多いのです。
指間炎の原因はいくつかありますが、毎日の生活で気を付けていれば、ある程度防ぐことができます。効果的な予防法は以下の通りです。
指間炎は湿ったままの状態が長く続くと、そこに細菌が感染し、症状を誘発することがあります。足を洗ったらしっかり拭いて乾かしましょう。タオルなどでごしごし拭いてしまうと皮膚を傷めますので、水気を吸い取るようにしましょう。ドライヤーをかけてもOK。シーズーは足回りの毛も長いので、毛のからみを取りながら乾かしましょう。
犬が生活する場所を水で洗い流したり、水ぶきすることが多いのなら、湿気に注意しましょう。湿気が多い環境では、細菌や真菌が繁殖しやすくなります。これらの菌に感染することで感染性の指間炎になりますので、なるべく乾燥させ、風通しの良い環境を心掛けましょう。
シーズーは人間が大好きでいつも陽気な性格です。留守番が多くなったりあまり構ってやらない時間が続くと、ストレスを解消するために体を舐めたり噛んだりするようになります。この行動がゆくゆくは指間炎を引き起こす可能性が高いので、クセにならないように気を付けましょう。散歩や遊びの時間を大切にしてください。
シーズーは足まわりの毛が伸びやすく、足先のトラブルにも気付きにくい長毛種です。お手入れはできるだけ細かくおこない、なるべく毎日しておきましょう。毎日おこなっていると、問題があった時に「いつから症状が出ているのか」が分かります。まだ間もないなら、そのように獣医師に伝えれば治療の仕方も変わってくるでしょう。
また爪切りも大切です。爪が長いままだと、引っ掛かったり爪が割れたりしてケガが発生しやすくなります。割れた部分から感染を起こす可能性も高まりますので、爪の手入れも忘れずに行いましょう。シーズーのような長毛種は子犬のうちからトリミング室に慣れさせ、お手入れをすることがストレスにならないようにしておきましょう。
シーズーは飼い主の手で手入れをするとしても、定期的にトリミングに連れて行くことになるでしょう。「お金のかかる犬種」などという人もいますが、トリミングは見た目をキレイにするだけではありません。プロの目でしっかりと全身をチェックしてもらうことこそが、トリミングの大事な目的なのです。定期的にチェックすることで飼い主には分からない変化にも気付き、異常にも早く対処することができます。「自分でできるからトリミングには出さない」などと言わず、ぜひプロの目で多角的に体調管理をしていきましょう。
シーズーにとって指間炎は、気付きにくく悪化しやすい厄介な病気の一つです。ですが日頃のお手入れと、異常行動に早く気が付くことで、悪化させずに済みます。また定期的なプロの手によるトリミングで、お手入れのアドバイスや皮膚の異常を知らせてもらえます。動物病院の定期健診だけでなく、自宅でのお手入れとプロの目を上手に利用して、早期発見に努めましょう。そしてもし異常が見られた場合は放置せず、すぐに獣医師に診てもらうことが何より大切です。
執筆者
大柴淑子(おおしばしゅくこ)
webライターで元動物看護士・ペットアドバイザー。
専門記事は犬猫から魚類・昆虫まで!楽しいペットライフのための、分かりやすくためになる記事を書いていきます。
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