獣医師執筆
公益財団法人 日本動物愛護協会
常任理事 獣医師 須田 沖夫
狂犬病は古くから世界中にある恐ろしい病気です。
狂犬病ウイルスを持っている動物に咬まれたり、引っかかれてできた傷口から唾液中に含まれているウイルスが体内に侵入し、脳神経に達すると症状を出して7~10日前後で亡くなります。
狂犬病は犬や人だけの病気でなく、哺乳類すべてに感染、発症し、科学、医学が発展した現在の最新医療の治療でも治すことができず、死亡する恐ろしい感染症です。
イヌからイヌ、または人や他の動物に感染する都市型はアジアが中心地域です。
アライグマ、スカンク、キツネ、コウモリなどが家畜や人に感染させる森林型は、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカなどで流行しています。
予防法がある現代においても、年間5~6万人が狂犬病で亡くなっています。
咬傷などからの感染から発症までの潜伏期間は、1週間から1年4ヶ月と多様ですが、1~2ヶ月が主流です。
発症すると7~10日で亡くなり、2週間はまれです。
前駆期は2~3日、性格の変化と行動の異常、恐怖心による興奮、飼い主に対する反抗、異物を好み刺激に応じて咬む、瞳孔が散大する。
興奮期は1~7日、落ち着きがなくなり、歩き回り、興奮状態になり、徘徊し、何でも咬む、異物を食べる。喉の筋肉麻痺により吠え声がかすれる、光や音などの刺激に対し過剰反応する。よだれを垂らし水や物がうまく飲み込めない。
麻痺期は2~3日、全身の麻痺、特に後半身麻痺、下顎が垂れ、舌を出してよだれを垂らす。むせるような吠え声、昏睡し死亡する。
野生動物の場合は、日常の行動に異常が見られ、昼夜が逆転したり、家畜や人の近くに来ることもある。弱っている動物を保護しようとして咬まれることもよくあり、狂犬病に感染することが多い。
人の場合は狂犬病の動物に咬まれたりして感染し、発症するまでの潜伏期間は咬傷部位や程度によって15日から1年以上と差が大きく、頭部に近いほど発症までの期間が短かく、多くは数か月で発症し亡くなります。
症状は発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛、疲労感、食欲不振など風邪症状から始まり、咬傷部位の疼痛、知覚異常などが見られる。その後、興奮、不安狂騒など脳障害症状が発生、錯乱、幻覚、筋肉痙攣などを起こし、昏睡状態になり呼吸停止、心拍停止となり死亡します。この間は7~10日です。
狂犬病は発症すると有効な治療法がありません。咬傷時、傷口をよく洗い、すぐにワクチン接種を数回行うことが必須です。
現在、日本では狂犬病は発生していませんが昭和34年に人、32年に猫の発生が最後でした。これは昭和25年に狂犬病予防法が施行され、犬の登録と予防注射が義務化されたので急激に狂犬病がなくなりました。
日本の周辺国では、現在も狂犬病に感染して亡くなる犬や人が数多くいます。そのため日本は輸入検疫も積極的に行い、犬猫、アライグマ、キツネ、スカンクについては180日以内の検疫をしています。
犬猫を輸入するときはマイクロチップによる個体識別、ワクチン接種、抗体検査をしています。狂犬病清浄地域からの輸入は12時間以内の係留検査をします。以上の条件が不備の場合は180日以内の係留検査をします。
狂犬病予防法では、生後91日以上の犬を飼い始めたら30日以内に地元の役所で犬を登録し、ワクチン接種をすることに決められています。
ワクチンは毎年1回は接種します。その時、行政から鑑札と注射済票が出るので犬につけておくことが義務付けられています。これをしないと罰則もあります。
犬等に咬まれた場合は水と石鹸で傷口をよく洗い、犬の口内にある細菌やウイルス等を洗い流します。ワクチン接種をしていない犬の場合は治療法が違うので、飼い主はワクチン接種歴について具体的に話してください。現在、日本では飼い犬の45%前後しか狂犬病ワクチンを接種していません。
海外では犬はじめ野生動物に接近し、接触すると狂犬病に感染する可能性があるので十分に注意してください。
犬は人間の生活において大切な存在です。数年前、クロマニョン人はネアンデルタール人の生活の場に侵入し消滅させました。その時、オオカミから犬をつくりマンモスなど多くの動物を殺し、食料や日用品をつくり、全地球に広がり文化を高めてきました。
人の健康も含め、多くの動物のためにあなたの愛犬は毎年4月から6月の間に狂犬病予防注射を受けてください。
*公益財団法人 日本動物愛護協会 常任理事 獣医師 須田沖夫先生 に記事を作成して頂きました。
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