獣医師執筆
森のいぬねこ病院グループ院長
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属
西原 克明(にしはら かつあき)先生
猫に多い病気の一つが「口内炎」です。実際に動物病院での診察では、口内炎を主訴に来院されることもあれば、ワクチン接種などの時に偶然見つけることもあります。しかし、口内炎も放っておくと徐々に悪化し、痛みが出てしまったり、食べ物を食べられなくなることもある、とても厄介な病気です。
そこで今回は、猫の口内炎についてお伝えします。
猫の口内炎は、実は非常に多く見られる病気です。歯ぐき(歯肉)や口の中の粘膜に傷がつき、赤くなったり腫れていたり、場合によっては潰瘍などの重度な病変が見られることがあります。
しかし、多くの猫は口の中をあまり見せてくれませんし、特に口内炎を持っている猫は痛みがありますので、なかなか口内炎の有無を確認することができません。そのため、動物病院に来院する口内炎の猫のほとんどは、重症化してしまっています。
口内炎の初期は、実は日常生活の中ではほとんど症状が見られず、見逃されることが多々あります。多くの場合は口臭が見られますが、猫がそれなりに元気であれば、動物病院を受診せずに様子を見てしまうパターンも多いようです。
しかし、重症化した口内炎では、口の痛みによって、食欲が落ちてしまいます。ただし、全く食べ物に見向きもしないのではなく、口以外は元気ですのでお腹は減っていて、ごはんの前まで来て食べようとする仕草を見せるのですが、食べられない、ごはんの前でじっとしている、そんな行動が見られるようになります。
また、口内炎を持つ猫では食欲不振以外にも、口臭やよだれ(流涎)、手で口を気にしたり、何度も口を開け閉めする仕草が見られます。さらには、よだれが手に付くことで、前足の毛が汚れたり変色したりすることもありますし、口の痛みで毛づくろいができず、体のあちこちに毛玉ができてしまうこともあります。
さらに猫の口内炎の中には、ウイルス感染が見られるものもあり、猫カリシウイルス感染症では、発熱、目やにやまぶたの腫れ、鼻水などの呼吸器症状などが見られますし、猫免疫不全症(猫エイズ)では、毛艶がなくなりどんどんとやせ細っていくこともあります。
このように、猫の口内炎は、口に関連する症状だけでなく、全身的な症状を伴うこともあり、それだけ身体に負担がかかる病気です。
なるべく、初期の口臭の段階、あるいは定期的にお口のチェックをして、痛みが出る前の口内炎を早期発見できるようにしましょう。
そんな猫の口内炎ですが、実はその原因には様々なものがあります。
上述のとおり、猫カリシウイルス感染症や猫エイズなどウイルス感染によって引き起こされる口内炎があります。特に猫エイズは完治が難しい感染症のため、一度口内炎を発症すると徐々に進行してしまいますので、積極的な治療が必要になります。
猫の歯周病に関しては、様々なデータがありますが、ほとんどの場合で成猫の8割以上が歯周病を患っていると考えられています。歯周病で見られる歯肉炎も、広い意味では口内炎と考えることができるので、歯周病が口内炎の直接的な原因になります。さらには、その他の口内炎の原因に加えて、歯周病がさらに口内炎を悪化させる要因になっていることもあります。
糖尿病や慢性腎臓病では、病気が進行すると、その症状の一つに口内炎が見られるようになります。これは歯ぐきや口の中の粘膜が、これら慢性病によってダメージを受けてしまうことと、慢性病による免疫力の低下によって、簡単に炎症が起こってしまうことが要因と考えられています。
さらに免疫力の低下については、猫エイズや猫白血病ウイルス感染症でも引き起こされることがあります。さらに免疫低下では、日和見感染といって、通常は感染しない細菌や、カンジダなどのカビによる感染も見られるようになります。
これらは、健康な猫では特に悪影響を与えないのですが、免疫力が下がってしまうと、増殖を始め、口内炎などの病気を引き起こすようになります。
実は猫の口内炎の多くは『難治性口内炎』と呼ばれています。今のところはっきりとした原因は不明で、その名前のとおり、治療に対する反応が悪く、なかなか改善しません。そのため、慢性化してしまい、なかなか口からの十分な栄養摂取ができずに、どんどんと弱ってしまうこともあります。
猫の口内炎は完治できないものも多く、例えば原因不明の難治性の口内炎は、生涯にわたって口内炎のケアが必要になります。ただし、ほぼ全ての猫の口内炎には大なり小なり「歯周病」が関わっています。そのため、口内炎が見られる猫では、治療にあたっては必ず歯周病のケアを行うようにしてください。
猫の歯周病は、全身麻酔による歯科検査や歯科レントゲンによってチェックできます。さらには麻酔下での治療を行うことで、かなり改善することができます。ただし、一度治療をしても、そのあとは徐々にまた歯周病が再発、進行しますので、日常的なオーラルケアや定期的な検査&処置が必要です。
また、歯周病治療の際、重度の口内炎が見られる場合には、抜歯術を行うことがあります。例えば難治性の口内炎で、痛み止めなど様々な治療をしてもなかなか良くならないケースでも、抜歯をすることで痛みがなくなり、元気を取り戻す猫もいます。ただし、口内炎の抜歯は明確な基準がないため、中途半端に抜歯をしてしまうと、口内炎の痛みが残ってしまうことがあります。そのため、口内炎の治療として抜歯を行う場合は、必ず歯科レントゲンを備えていて、歯科が得意な動物病院に相談するようにしましょう。
一般的には、口内炎の治療はいわゆる『対症療法』であり、ほとんどが痛みや炎症を取り除くための薬を使用します。
中には、ステロイドなど、長期間使用すると副作用が見られる薬もあり、完治が難しい場合は、使い続けないとなかなか猫の痛みを減らせないため、止むを得ず使い続けるケースも見られます。
しかし、近年では筆者の経験上、ほとんどの猫の口内炎では、ステロイドに頼らなくても他の薬剤やサプリメント、歯周病治療によって、痛みをコントロールできています。もちろん様々なケアを行いますので治療費がかかってしまいますが、少しでも猫にとって負担の少ない治療をしてあげたいとことです。
特に最近では、不飽和脂肪酸のサプリメントやキングアガリクスのような免疫力を高めるサプリメントを取り入れることで、薬の量を減らせたり、場合によってはほとんど薬に頼らなくても口内炎をケアできるようになっています。
ただし、これらのサプリメントはどんなものでも良いというわけではなく、高品質なものを選んであげる必要があります。つまり、原材料のクオリティが高い、添加物を使用していない、学術情報が豊富、そういったものを選んであげたいところです。その中でもキングアガリクスは、筆者自身の動物病院でも取り入れており、その確かさを実感していますので、強くお勧めします。
このように、猫の口内炎は完治が難しく、歯周病の管理をしながら、お薬やサプリメントなどをうまく活用していくのですが、筆者の経験では、食事管理によっても口内炎が改善するケースがあります。ただし、どの食事が良いのかは、一頭一頭で異なるため、ここではお勧めの食事方法というものを明言できないのですが、なかなか口内炎が改善しない場合はぜひ取り組んでいただければと思います。
猫の口内炎が食事で改善するということは、おそらく口だけの問題ではなく、何かしら全身的な問題が隠れていると思われます。したがって、口内炎だけをなんとかするのではなく、猫の心身全体の健康状態を把握し、少しでも負担の少ない生活を心がけてください。
猫の口内炎は比較的多くの猫に見られますが、その原因は様々で、中にははっきりした原因がわからずなかなか改善しないケースもあります。口内炎の治療では歯周病治療を含めた歯科処置が非常に大切で、中には抜歯することで症状が軽減するケースも多くあります。
また、お薬による対症療法は、長期化すると副作用をはじめとした様々な問題が起こりやすくなります。そのため、薬だけに頼るのではなく、食事やサプリメント、あるいは日常生活のストレス管理など、トータルな対策が必要になります。
執筆者
西原 克明(にしはら かつあき)先生
森のいぬねこ病院グループ院長
帯広畜産大学 獣医学科卒業
略歴
北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。
所属学会
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会
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