獣医師執筆
森のいぬねこ病院グループ院長
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属
西原 克明(にしはら かつあき)先生
脂肪肝は人でもメタボリックシンドロームや飲酒による病気として知られています。
しかし、猫の脂肪肝については、どんな猫でも起こりうるちょっと厄介な病気です。
そこで今回は猫の脂肪肝についてお伝えします。
「脂肪」という言葉を聞くと、多くの方は「太っていること」をイメージしてしまいます。したがって、猫の脂肪肝というと、「太っている猫がかかる病気」と捉えられがちです。
しかし、猫の脂肪肝とは、肝臓に脂肪が蓄積してしまう病気のことで、何も太っている猫だけに見られるものではありません。さらに猫の脂肪肝は様々な原因で引き起こされ、人間や犬と比べて重症化しやすいと考えられています。
猫の脂肪肝の厳密なメカニズムは分かっていませんが、人間や犬が雑食動物なのに対して、猫は完全な肉食動物であり、その違いが脂肪肝の重症化と関わっているのではと言われています。
猫の脂肪肝の中でも、栄養学的な異常によって引き起こされる脂肪肝は「肝リピドーシス」と呼ばれています。
猫は何らかの原因でエネルギー不足が起きると、体の脂肪からエネルギー供給されるのですが、その代謝は主に肝臓で行われています。しかし、大量の脂肪が代謝されると肝臓が処理しきれなくなり、トリグリセリドと呼ばれる脂肪の代謝物が肝臓に蓄積してしまいます。
これが肝リピドーシスのメカニズムなのですが、肝リピドーシスになると肝臓の機能が低下し、重度になると黄疸や肝性脳症という神経症状が見られるようになり、やがて死に至ります。その一方で、治療にしっかりと反応した場合は、多くの猫は回復しますので、猫の肝リピドーシスは、早期発見、早期治療が非常に重要です。
猫の脂肪肝「肝リピドーシス」を見逃さないようにするためには、猫がエネルギー不足に陥った時点で、なるべく早く治療を開始する必要があります。エネルギー不足のほとんどは、栄養摂取不良、つまり食欲がなくなることが原因です。そのため、どんな原因であれ、猫の食欲が落ちているときは、肝リピドーシスに注意が必要です。
一般的には、猫が絶食状態になりエネルギー不足に陥ると、24時間以内に肝リピドーシスが起こり始めると言われています。実際には、すぐにエネルギー不足になるわけではありませんので、食べなくなってから2日くらいで発症すると思われます。とはいえ、上述のとおり、肝リピドーシスは治療が遅れると死に至るケースもある恐ろしい病気ですので、猫が丸一日、食事を摂らなければその時点で動物病院を受診し、必要な検査や処置を行うことが重要です。
猫の食欲がなくなる原因として、慢性腎臓病やガンなど、何かしらの病気が隠れていることがほとんどです。そのため、食欲が落ちた猫では、肝リピドーシスにならないようにするために、対症療法だけでなくしっかりと原因を診断し、その治療を行うことも重要です。
特に猫の肝リピドーシスを引き起こす原因の一つとして、「三臓器炎」という病気が注目されています。これは炎症性腸疾患という腸の病気、胆管炎という肝臓の病気、そして膵炎の3つの病気が併発している状態を言います。
3つの病気が併発していると、かなり重症のように感じますが、実はこれらの病気は初期段階ではほとんど臨床症状がなく、早期発見が非常に難しい病気ばかりです。そのため、気付いた時にはかなり重症化していて、そこにさらに肝リピドーシスが併発してしまうと非常に危険な状態になってしまうのです。そのため、何となく元気がない、何となく食欲が落ちた、というように、一見すると軽い症状でも、原因がはっきりしない場合には三臓器炎を疑い、肝リピドーシスに陥らないようにするためにも、早めの受診をお勧めします。
このように、悪化してしまうと非常に厄介な肝リピドーシスや、その原因の一つである三臓器炎ですが、実はその診断も厄介なため、場合によっては診断にこだわりすぎず、それらの病気が疑われた時点で、積極的な治療が必要になることもあります。
猫の肝リピドーシスや三臓器炎は、血液検査や超音波検査など、猫にそこまで負担のかからない検査で、おおよその見当をつけることはできます。しかし、より診断精度の高い確定診断を行うためには、試験開腹が必要なことも多く、猫にとっては非常に大きな負担を強いる検査となります。
そのため、大学病院や高度医療センターのような二次診療、三次診療を行う病院では、しっかりと診断が必要になりますが、かかりつけの動物病院では、確定診断を待たずに、それらの疑いが強まった時点で治療を始めることがほとんどです。
猫の肝リピドーシスの治療で、最も大切なのは「適切な栄養摂取」です。エネルギー不足から引き起こされた病気ですので、適切なエネルギー補給をすることで、大抵の肝リピドーシスは治療することができます。
しかし、この「適切な栄養摂取」が難しく、また治療期間も数ヶ月と非常に長期に及ぶこともあります。
肝リピドーシスに陥った猫は、いわゆる「飢餓状態」となっていますので、通常の食事を摂ると、逆に体に大きな負担がかかってしまいます。そのため、最初は少量のエネルギーを補給していく必要があり、徐々に摂取量を増やしていきます。
また、栄養バランスについても、タンパク質や脂肪の量、さらにはビタミンやミネラルの補給も非常に重要で、せっかくエネルギーを補給しても、例えば過剰なタンパク質によって逆に体に負担がかかってしまうこともあります。さらには、肝リピドーシスを引き起こす原因となった病気についても、栄養学的なケアが必要なケースがあるため、様々な要因を考慮して、栄養バランスを調節する必要があります。
さらに肝リピドーシスの治療、すなわち栄養摂取を難しくする要因に、猫の食欲低下が大きく影響します。つまり、肝リピドーシスとなって具合が悪いから食べられないのに、治療のために食べる必要がある、という猫にとっては負担の大きい治療となります。
そのため、食欲が戻らない猫の場合は、強制給餌といって、人の手で流動食など比較的摂取しやすいものを無理やり食べさせる方法をとることがあります。ただし、強制給餌は猫にとっては大きなストレスになりますので、そのストレスによってさらに食欲不振が続いてしまうというケースもあります。
そこで、食欲が回復しない肝リピドーシスの猫では、「食道チューブ」や「胃チューブ」といった方法で給餌する場合があります。これらは、食道や胃に流動食を流し込むためのチューブを設置することで、強制給餌のように猫に大きなストレスをかけることなく栄養摂取をさせることができます。
チューブ設置部位の傷の管理や、チューブ自体を噛まれないようにするなどの管理も必要ですし、何より飼い主の方にとっては痛々しく見える治療方法ですが、筆者の経験上、これによって肝リピドーシスの回復率が格段に高くなりますので、なかなか食欲が戻らない猫ではぜひ取り入れていただきたい治療方法です。
また、猫の肝リピドーシスの治療は、長期間を要する場合、自宅での看護が必要になります。もちろん入院生活に慣れている猫であれば良いのですが、ほとんどの猫は入院自体が大きなストレスとなり、食欲が回復しない原因にもなりますので、長期間の治療が必要な場合は、上記のようなチューブでの給餌などをご自宅で行う必要があります。そのため、猫の肝リピドーシスの治療は、ご自宅での飼い主の方の看護も非常に重要なポイントになります。
今のところ、猫の脂肪肝を予防する方法は知られていません。また、肝リピドーシスの原因として多い三臓器炎についてもはっきりとした発症要因が不明で、やはり予防方法は確立されていません。
しかし、これは筆者の個人的な意見ですが、良質な食事と運動管理ができれば、ある程度予防ができるのでは、と考えています。
人と暮らす多くの猫の主食はキャットフード、中でもドライフードが非常に多く利用されています。ドライフードは栄養学的には非常に優れた食事ですが、その栄養学自体がまだまだ発展途上、従ってドライフードを含むキャットフードもまだまだ改善の余地があるものだと考えています。
そのため、より品質の高いキャットフードを選ぶことはもちろん、その消化吸収をサポートするようなサプリメントを導入することは、猫の脂肪肝の予防につながるのでは、と考えています。
中でもキングアガリクスは、その原材料の品質や製造方法、さらには学術情報の豊富さからは、他に類を見ない高品質なサプリメントで、しかも腸内細菌にアプローチし免疫力をケアすることから、キャットフードのサポートにはうってつけのサプリメントだと考えます。
また、近年は交通事故や感染症のリスクから猫を守るために、完全室内飼育が推奨されていますが、室内飼育の場合は、何かしらの室内環境の工夫をしないと、猫が運動不足に陥ってしまいます。冒頭、「脂肪肝と肥満は違う」と述べましたが、やはり肥満の猫は脂肪肝や肝リピドーシスのリスクは高いと考えられていますので、肥満予防の観点からも、十分な運動は猫の脂肪肝の予防につながるのではと考えています。
猫の脂肪肝は、人や犬と違って絶食状態から陥る肝リピドーシスというものがあります。肝リピドーシスは、治療が遅れると死に至ることもある恐ろしい病気ですが、しっかり治療できれば治癒率も高い病気です。ただし、治療には手間暇と時間がかかることが多いです。
肝リピドーシスは初期症状がわかりづらいため、少しでも食欲が落ちているなどの異変がある場合は、早めに動物病院を受診するようにしてください。
執筆者
西原 克明(にしはら かつあき)先生
森のいぬねこ病院グループ院長
帯広畜産大学 獣医学科卒業
略歴
北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。
所属学会
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会
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