獣医学部生執筆
わたしたちを含め、動物が生きて活動するためには血液が必要です。心臓は全身にその血液を循環させるポンプの役割をもっています。血液は、心臓がポンプとしてはたらくことにより、太い血管から体のすみずみの細い血管まで運ばれます。そして血液からそれぞれの場所に酸素や栄養を与え、反対に二酸化炭素や老廃物を受け取ります。このようにとても重要な役割をしている心臓に異常が起こる病気にはさまざまなものがあります。
とくに代表的な犬の心臓病として、「心不全」、「僧帽弁閉鎖不全(そうぼうべんへいさふぜん)」、「フィラリア症」が挙げられます。いずれも悪化すると重い症状を示し、命に関わることもある病気です。
またこれに加え、先天性の心臓病といって、犬が心臓に異常をもって生まれてきたために起こる心臓の病気もあります。この場合は多くが普段の生活にはさほど影響がないため、飼い主さんも気づかず、犬も普通に成長し生活しています。年を取ってから初めて症状があらわれることも少なくありません。
まとめて心臓病といってもさまざまな病気があり、それぞれかかりやすい犬種も異なります。その中で犬の心臓病でもっとも多い「僧帽弁閉鎖不全」にかかりやすい犬種には、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルやマルチーズが挙げられます。
また、高齢になった犬ではとくに心臓に異常がでやすいため、注意が必要です。
犬が心臓病になると、心臓の鼓動に異常が現れます。犬の左の前足を深く曲げたときに、ひじがつくあたりが心臓の位置です。ここに手を当てると、トクトクとした鼓動を感じるのが分かりますが、異常が起こるとリズムが乱れたり、手で感じる鼓動の強さがバラバラになったりします。
「心不全」では、「呼吸困難」や「せき」などがおこります。症状の程度はさまざまで、運動したときだけにでる軽いものから、静かにしているときにもでる重いものまであります。
「僧帽弁閉鎖不全」は、年齢を重ねるにつれて少しずつ進行します。はじめは興奮したときなどに軽い「せき」がみられますが、その間隔はだんだん短くなり、重くなると一晩中「せき」が止まらなくなることもあります。
「フィラリア症」では、犬はものを吐くときのような姿勢で下を向き、何かがのどにひっかかったような「せき」をします。また、おなかの中に水がたまる「腹水」によりおなかがパンパンに張ることもあります。
「先天性の心臓病」では、ほかの犬に比べて疲れやすいことはあるものの、はっきりとした症状があらわれないのが特徴です。しかし他の病気になりやすくなったり、重症化したりするためその場合には治療が必要になります。
病気の原因や症状に応じて、心臓の力を強くする薬や、排尿を促進する薬などを用いて「せき」や「腹水」といった症状を軽くすることが主な治療になります。また、運動を制限してなるべく興奮させないようにし、静かに生活させてあげることも大切になります。
「先天性の心臓病」でも同様の治療がおこなわれますが、症状が重くなった場合には手術が必要になることもあります。
せきや、呼吸の苦しそうな様子がみられたときは、症状の軽いうちに治療をおこなうことが一番ですので、早めに獣医さんにみてもらいましょう。
※この記事は麻布大学獣医学部のご協力により作成いたしました。
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