動物看護士・トリマー執筆
執筆者:山之内さゆり先生
動物看護士・トリマー
最近「ハズバンダリートレーニング」や「ハズバンダリーケア」という言葉を、SNSや動画などで見聞きしたことはありますか。
ここではハズバンダリートレーニングとはいったい何なのか?
それをすることで愛犬にどのようなメリットがあるのか?についてお話します。
犬に限らず動物を飼育するにあたって、必要不可欠なことがあります。
それは、飼育動物の福祉に十分に配慮した飼育・管理をすることです。
犬であれば犬の習性や適切な飼育環境を、猫であれば猫の習性と適切な飼育環境を理解することが飼い主として重要です。
この『動物の福祉に十分に配慮した飼育・管理』が、ハズバンダリーでは大切であると考えられています。
ハズバンダリートレーニングはよく『受診動作訓練』と言われていますが、これは正確には正しいとは言えません。
受診動作訓練とは採血や体重測定など、健康管理に必要な動作を動物に協力してもらえるようにするトレーニングのことをいいます。
受信動作訓練はあくまでもトレーニングの中のひとつに過ぎないのです。
ハズバンダリートレーニングとは『動物福祉の向上を目的としたトレーニング』であり、トレーニングの種類は多岐にわたります。
ハズバンダリートレーニングはドッグトレーニングのひとつであり、犬にアプローチするのではなく、飼育環境にアプローチして行う取り組みであることを知っておいてください。
ハズバンダリートレーニングは特別なものではなく、日常のあらゆるところで取り入れられています。
実際にドッグトレーナーなどプロに相談して練習をしている人もいれば、見様見真似で取り組んでいる人も少なくありません。
では、実際にどのようなハズバンダリートレーニングがあるのか、いくつかご紹介しましょう。
・クレートトレーニング
・歯磨きトレーニング
・トイレトレーニング
・ブラッシングトレーニング
・爪切りトレーニング
・目薬トレーニング
他にもいろいろなハズバンダリートレーニングがありますが、これらはよくSNSなどでも見聞きすることも多いので、なんとなくイメージできるかもしれませんね。
特にクレートトレーニングやトイレトレーニング、歯磨きトレーニングなどは、多くの飼い主さんが犬を迎えたらやるべきトレーニングのひとつとして考えるものでしょう。
また、ブラッシングも日常のケアとして欠かせないもののひとつですが、ブラシを見ると嫌がって逃げてしまうという悩みもよくありますよね。
これもハズバンダリートレーニングによって、犬も人も楽しみながら取り組めるようになります。
一方で爪切りや目薬のトレーニングは、やはりプロからの指導がなければ「コツをつかみにくい、うまくできない」ということも多いので、一度ハズバンダリートレーニングができるプロに相談するとスムーズです。
もし自分でやってみるのであれば、犬にとって報酬となるものと、犬が集中できる環境を用意してください。
「ご褒美をあげているのにうまくいかない」と聞きますが、せっかく犬が協力してくれても、そのご褒美が犬にとってはご褒美として機能していないことも少なくありません。
また、犬のボディランゲージを読めていないために、犬が嫌がっているのに気づかずトレーニングを続けてしまい、そのトレーニング自体を嫌いになってしまうということもあります。
犬に協力をお願いして一緒に楽しみながら取り組むためには、何が犬にとってうれしいご褒美になるのかを知っておくこと、そして嫌だといったらすぐにやめることができるよう、ボディランゲージを読めることが必須です。
犬のボディランゲージを学ぶためのセミナーや書籍などもあるので、プロに直接相談するのはハードルが高いと感じる方は、そうしたセミナーや書籍を利用して勉強するのもおすすめです。
ネガティブなストレスは、犬の免疫を低下させることも知られています。
ストレスのため膿皮症やマラセチア皮膚炎、皮膚のバリア機能の低下によるフケやかゆみなどの皮膚疾患や症状を招くことも少なくありません。
ハズバンダリートレーニングは、動物に協力をお願いして取り組むトレーニングです。
犬を従わせてコントロールすることではないので犬が「今やりたくありません」という拒否の意志を示せば受け入れることが必要です。
あくまでも協力をお願いするのであり「これをやりなさい。」と従わせることではありません。
例えば、「これをやりなさい」と言われた時、あなたはそれをやりたくないとしましょう。
今はやりたくない、心の準備がほしい、といった気持ちがあり、それを伝えているにも関わらず「やりなさい!やらなければ罰を与えます。」と強要されたらどうでしょう?
罰を与えられるのは苦痛ですし、やりたくないのに強制されるのも嫌ですよね。
こういった行為はあなたに大きなストレスを与え、吹き出物や化粧ノリの悪さなど、肌に影響することもあるでしょう。
ですが「今はやりたくないが、少しであれば大丈夫です。」と伝えることができ、それを了承してもらい、少しずつ自分が受け入れられるよう段階的に取り組んでもらえたら肌トラブルを起こすほどのストレスはさけられるのではないでしょうか。
それは犬も同じだということを忘れず、犬も人も前向きな気持で取り組める工夫をしてあげてください。
ハズバンダリートレーニング、つまりドッグトレーニングとは手段であり目的ではありません。プロでもここを勘違いしている人が多く、トレーニングが目的になっていることがあります。
あくまでも目的は「QOL」と「動物福祉の向上」です。それを達成するための手段のひとつとして、ドッグトレーニングがありハズバンダリートレーニングがある、ということを忘れてはいけません。
目的と手段が逆になっていることに気づかないと、犬のためと言いながら自分のためであったり、犬に協力をお願いするはずが犬を従わせようとしていた…なんてこともあります。
これは人間に「犬が言うことを聞いてくれた!」という達成感や快感はあっても、犬にとっては選択の自由を奪われ従うしかなかったというネガティブな経験であり、協力関係とはとても言えません。
犬はとても寛容な生き物です。
その寛容さに甘えていることに気づかず、おやつを与えれば優しい取り組みなのだと勘違いしてしまうのが人間です。
そうならないよう常に、犬の心身の健康を守るためのトレーニングであると意識し続けなければなりません。
そのためには犬が拒否する選択も受け入れ、犬がやってもいいという姿勢を見せてくれたら、少しずつ小さなステップから取り組んでいくことがとても重要です。
山之内さゆり先生
トリマー、動物看護士
約10年間動物病院でトリマー兼動物看護士として勤務。
現場で得た知識と経験を情報として発信し、飼い主さんとペットが幸せに暮らせるためのお手伝いをしていきたいと思います。
ドッグトレーニングと動物福祉の関係を知って犬のストレスを減らしてあげよう
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