獣医師執筆
森のいぬねこ病院グループ院長
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属
西原 克明(にしはら かつあき)先生
まず初めに「リンパ腫」という名前について、よくいただくご質問にあらかじめ答えておきます。
実は、以前は悪性リンパ腫、あるいはリンパ肉腫と呼ばれていたため、飼い主の方からよく、「リンパ腫と悪性リンパ腫、リンパ肉腫ってどう違うの?」というご質問をいただきます。
でも、今は全てひとくくりにして「リンパ腫」と呼ばれていて、どれも同じ意味になりますので、ここでは全て「リンパ腫」という呼び方に統一しますね。
では、リンパ腫ってどんなガンかと言いますと、動物の体にはあちこちにリンパ節という組織が存在するのですが、それがガン化したものをリンパ腫と呼びます。
でも、リンパ腫といっても、リンパ節自体が多数存在するため、お腹の中のリンパ節がガン化したり、あるいは体の表面に存在するリンパ節がたくさんガン化したりと、ガンが発生する場所によって、同じリンパ腫でもいろんなパターンが存在します。
さらには、リンパ節にはリンパ球や形質細胞といった免疫機能を持った細胞がいるのですが、ガンになるとそれらがリンパ節以外の様々な場所に転移させてしまうので、さらに複雑な病態になっています。
リンパ腫は、犬のガンの中でも比較的発生の多いガンです。上記のとおり、リンパ腫といってもいろんなパターンがあるのですが、その中でよく見られるタイプについて、以下に解説します。
リンパ節の中でも「体表リンパ節」というリンパ節のガンを「多中心型リンパ腫」と呼びます。
体表リンパ節は、体のあちこちに存在し、名前のとおり体の表面にありますので、場所さえわかれば実際にガン化して腫れてるリンパ節を触ることができます。
さらにこのリンパ腫では通常、複数か所がガン化し、一か所だけのリンパ節がガンになることは非常に稀ですので、体のあちこちにできものができるようになります。
犬のリンパ腫のうち、80%以上がこの多中心型リンパ腫と言われていて、一番多く発生するリンパ腫です。
胃や腸といった消化管に発生するリンパ腫で、ガン化したリンパ系の細胞が消化管に侵入し、そこで増殖を繰り返すことで発症すると考えられています。
消化管の中でも、胃や十二指腸などの上部消化管で発生することが多いと言われていて、犬のリンパ腫の5~7%がこの消化器型リンパ腫だとされています。
前縦隔とは、胸の中にある空間のことで、そこに存在している前縦隔リンパ節、あるいは胸腺がガン化したリンパ腫を前縦隔型リンパ腫と呼びます。このタイプのリンパ腫も時々見かけます。
皮膚の各組織がガン細胞の侵されるタイプのリンパ腫で、毛包や汗腺といった毛穴の付属器官にガン細胞が侵入しやすいと言われています。
皮膚型リンパ腫の見た目の病変は様々で、皮膚のしこりから赤みがどんどん広がったり、あるいはしこりが分厚くなって、「局面」と呼ばれる炎症が見られたりします。
これら皮膚型リンパ腫の見た目は、他の皮膚病との区別が難しく、診断をより難しいものにしています。
他にも肝臓や脾臓、あるいは血管に見られるリンパ腫もありますが、非常に稀なタイプだと言われています。
また、リンパ腫の分類方法は、上記以外にも、リンパ系細胞やリンパ節の形態検査、あるいはリンパ腫の遺伝子検査によって、様々な分類がなされており「T細胞型リンパ腫」とか「B細胞型リンパ腫」あるいは「低悪性度リンパ腫」や「高悪性度リンパ腫」と呼ばれたりもしています。
さらにはガンの進行度を推測する「ステージ分類」も行われ、「リンパ腫ステージ1a」とか「リンパ腫ステージ4b」と呼ばれたりもします。
これらの言葉は、実際に診察をしていてもよく耳にする言葉で、上記で説明した分類とはまた違う呼び方になりますので、飼い主の方は混乱してしまうかもしれません。
これらは、かなり専門的な分類になりますので説明は割愛しますが、しかし、治療方法の選択や治療に対する反応の良し悪し、あるいは余命を予測するのに非常に重要な分類なのです。
ですので、動物病院でリンパ腫が疑われた時には、針を刺す「細針吸引検査(細胞診)」や、全身麻酔下でリンパ節を切除して検査する「組織学的検査」など様々な検査を行い、このような複雑な分類を行うことになります。
特に組織学的検査では、飼い主の方の中には「リンパ腫って診断ついてるのに、検査のためだけにわざわざ全身麻酔をかけるの?」と思われる方もいらっしゃるのですが、リンパ腫の場合は特に、こういった組織学的分類が重要になりますので、ぜひその点はご理解いただければ幸いです。
獣医学的な文献によると、リンパ腫の好発犬種は、ボクサー、バセットハウンド、ゴールデンレトリバー、ロットワイラーなどが報告されています。
日本では、ペット保険会社の情報に基づきますが、ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、フレンチブルドッグ、ウェルシュコーギーに多く見られるようです。
はっきりとした原因はわかっていませんし、他のガンのように原因となる遺伝子も特定されていません。
一説には、ある農薬がリンパ腫の引き金になったり、あるいはタバコがリンパ腫の原因の一つになるのでは、と考える獣医師もいます。
どのような症状がありますか?動物病院を受診するポイント
リンパ腫の症状は、そのタイプによっても様々です。
しかし、どのリンパ腫にも、基本的には何の症状も示さないで過ごす期間があるため、その時点では、健康診断などでリンパ節の腫れなどを見つけないと、リンパ腫と気づかないことが多いです。
また、症状を認める場合でも、リンパ腫に特徴的な症状というのはなく、実に様々な症状が見られるため、症状だけで他の病気と区別することは非常に難しいです。
以下にタイプ別リンパ腫の主な症状を記載します。
多中心型リンパ腫は、全身的な症状を示します。食欲不振、体重減少、嘔吐、下痢、呼吸困難、発熱などを認めることが多いです。
さらには一部の多中心型リンパ腫では、ぶどう膜炎や網膜出血といった、目の症状を認めることもあります。
消化器型リンパ腫では、名前のとおり、嘔吐や下痢、体重減少など消化器に関係した症状を認めます。
しかし、やはり消化器型リンパ腫に特有の症状というのはなく、他の消化器系の病気と症状だけで見分けることは非常に難しいです。
前縦隔型リンパ腫は、呼吸が早くなったり、息苦しそうな呼吸、チアノーゼ(舌が青紫になる)といった呼吸器系の症状を認めるようになります。
また、首や前足に「むくみ」を示すこともあります。
皮膚型リンパ腫は、体表の皮膚はもちろん、口の粘膜などに病変を作ることもあります。
また、皮膚の病変は数年の間、大きさも変わらずそのまま過ごすこともありますし、どんどんと全身に広がるタイプもあります。
犬のリンパ腫の余命は、「組織学的悪性度」、「症状の有無」によって大きく異なります。
そのため、一概に余命を示すことは難しいのですが、悪性度が高い場合、無治療の場合は数週間で命を落とすケースもありますし、悪性度が低いものでは、1年以上、何の症状も示さず元気に過ごすケースもあります。
どのようにして治療しますか?手術、抗がん剤など
リンパ腫は、ガンの中でも「抗がん剤(化学療法)」によく反応するガンで、多くのリンパ腫では抗がん剤(化学療法)を実施することで、症状を改善させたり、余命を伸ばすことができると考えられています。
化学療法には、様々な抗がん剤を組み合わせたパターンがいくつもあり、リンパ腫のタイプによって使い分けられたりします。
中には、一種類の抗がん剤だけ使う方法もありますが、抗がん剤を組み合わせる「多剤併用療法」の方が、治療効果が高いと言われています。
ガンは、体のバランスを無視して、勝手に細胞分裂を繰り返し、どんどんとガン細胞を増殖させてしまいます。
抗がん剤は、その細胞分裂を止めることで、ガンの増殖を抑えようとする薬ですが、ほとんどの抗がん剤は、残念ながら、ガン細胞だけでなく正常な細胞の細胞分裂をも止めてしまいます。
そのため、抗がん剤は、様々な副作用が見られますし、中には命に関わるような重い副作用が出てしまうこともあるため、治療にあたっては十分な注意が必要です。
また、近年では「免疫療法」を導入する動物病院が増えてきました。
免疫療法とは、自分自身の免疫力で、ガン細胞の増殖を抑えようとする治療方法です。
具体的には、自分自身の免疫細胞を取り出して人工的に増殖させ、それを体内に戻すことで免疫力をアップさせる方法や、様々なサプリメントやインターフェロンを用いて、免疫力をアップさせる方法があります。
その効果のほどは、まだ十分に結論づけられていませんが、私自身の経験として、一定の効果があるんじゃないかと考えています。
とはいえ、リンパ腫が完治することはまずありません。
しかしそれでも、リンパ腫の症状を緩和させたり、あるいは化学療法の副作用を軽くするのに役立っていると感じていて、実際の診療でも免疫療法をお勧めすることが多いです。
ただし、免疫細胞を増殖させる方法は、研究レベルの治療法で、実施できる施設が限られていますし、長期的な治療のメリットデメリットは今の段階では不明ですので、注意が必要です。
さらには、サプリメントは、高品質なものを選ばないと、効果がないどころか、体調を崩してしまうものもあるため、サプリメント選びにも十分な注意が必要です。
これまでお伝えしてきましたように、リンパ腫には様々なパターンがあるので、なかなか実際の典型的な治療例をお伝えするのは難しいです。
ただ、ほとんどの場合は、抗がん剤治療がメインになりますので、リンパ腫の治療には、時間も手間も費用もかかります。
ですのでただやみくもに目の前の治療を行うのではなく、それぞれの飼い主の方がしっかりと納得した上で続けられる治療方法を選択することが重要で、実際に治療を行う獣医師ときちんと相談しながら治療を進めてください。
また、抗がん剤を扱うにあたって、非常に重要なことがあります。
それは、抗がん剤はとても強い薬ですので、取り扱いには慎重さが必要です。
特に飲み薬タイプの抗がん剤は、ご自宅で与えることがほとんどですが、その際には、抗がん剤を直接触らないようにすること、また粉薬の場合は、吸い込まないようにすることが大切です。
必ず手袋、マスクを着用した上で扱うようにしてください。
また、抗がん剤治療を受けている犬の排泄物にも、抗がん剤が混ざることがありますので、排泄物の取り扱いも重要で、特におしっこは十分に水で洗い流すようにしましょう。
普段からどんなことに注意して飼ったらいいですか?
現在のところ、リンパ腫を確実に予防する方法はありません。
しかし、リンパ腫も他の病気と同じように、早期発見、早期治療を行うことで、犬の負担を少なくする、つまり苦しい思いをさせる割合が減らすことができます。
リンパ腫の初期は、ほとんど何の症状も見られませんので、できれば早期発見するためには、普段から体表のリンパ節をチェックする、定期的に健康診断を受ける、といったことが有効です。
私自身の経験でも、初期のリンパ腫は、健康診断で見つかることが多く、症状が出てからのリンパ腫、つまり進行したリンパ腫よりも、治療効果が高いように感じています。
また、リンパ節やリンパ系の細胞は、体の免疫を担う器官、組織ですので、日頃から免疫力を調える、あるいは免疫力を強化することは有効かもしれません(残念ながら獣医学的な証拠はありません)。
具体的な方法は非常に多岐に渡るため、ここでご説明するのは難しいですが、生活環境、食事、サプリメント、運動など、少しでも犬にとって良いものを選択していくことが重要ですので、ぜひ普段から、そのような生活習慣の改善にも取り組んでいただければと思います。
執筆者
西原 克明(にしはら かつあき)先生
森のいぬねこ病院グループ院長
帯広畜産大学 獣医学科卒業
略歴
北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。
所属学会
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会
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