動物看護士・トリマー執筆
動物看護士 トリマー
山之内さゆり先生
大きな体からは想像もつかないような無邪気さとそれに比例するような優しさに溢れるラブラドールレトリバー。いつまでも元気な姿を見ていたいですし、ずっと楽しく一緒に過ごしたいですよね。
しかし、ラブラドールレトリバーは一番やっかいで避けたい病気の一つであるがんにかかりやすい犬種です。特になりやすいがんの種類が悪性リンパ腫で、悪性リンパ腫にかかるとリンパ節に腫瘍ができてしまい、状態が進行するにつれてリンパを伝って全身に広がり、肝臓、膵臓、骨髄などにも転移していきます。
悪性リンパ腫なんて考えてたくもないと思いますが、かかりやすい病気である以上もしものときに備えておくことも必要です。まだなってもいない病気に対して、具体的にどうするということではありませんが、ラブラドールレトリバーが悪性リンパ腫になりやすいという事実を受け止め、日頃から意識を向けておくことでその後の心構えや対応に大きな差がでます。
なぜラブラドールレトリバーが悪性リンパ腫になりやすいのか、その原因は今のところはっきりとは分かっていません。
言われているのは、遺伝的なものが関係しているのではということだけです。
大切な愛犬ががんになってしまったとき、そのショックと悲しみで自分を責めてしまう飼い主さんも少なくありません。しかし、こうした悪性リンパ腫のようにどうすることもできない病気も存在します。
愛情を持って育ててきたのであれば、それは飼い主さんの責任でもなんでもありません。大事なのは、いざそうなってしまったときにどうしたら愛犬のQOL(クオリティオブライフ)、つまり生活の質を高めてあげられるかです。
悪性リンパ腫になるといったいどのような症状が出てくるのか、ちょっとした体調の変化にいかに早く気が付くかがその後にも大きく影響してくるので、意識してチェックしてあげてください。
・首、胸、脇、足の付け根など体にシコリができている
・なんだかいつもよりも疲れやすい気がする
・元気食欲がない、または落ちている
・体重が減ってきた
一番気付きやすいのはやはり体にできるシコリですね。シコリができたから必ず悪性リンパ腫というわけではありませんが、首や胸、脇下、足の付け根などいわゆるリンパ節がある場所に発症しやすく、1ヶ月もしないうちに急激に大きくなるようなら悪性腫瘍の可能性が非常に高いです。
また、シコリ以外にも元気食欲や疲れやすさなど日頃の状態となんだか違う気がする…ということがあれば、しばらく様子を見るのではなくできるだけ早めに動物病院に連れて行ってあげましょう。
たまに、少し元気や食欲がなくなっても様子を見れば治るかと思って、1週間や2週間もそのままにしている飼い主さんがいらっしゃいます。
人にとってはたかが1週間や2週間かもしれませんが、犬は人よりも早く年を取る生き物であり、しかもラブラドールレトリバーは大型犬なので小型犬や中型犬よりも更に早く年を取ります。
小型犬のシニア期が7歳からと言われているのに対し、ラブラドールのような大型犬は6歳からシニア期と言われています。
それだけ早い時の流れに生きているわけですから、そのちょっとが 愛犬にとってはとても長い時間となり、もっと早く受診していれば…なんてこともあります。
もし悪性リンパ腫であった場合、治療をしなければ1〜3ヶ月の間で亡くなってしまうことがほとんどです。しかし、早期発見早期治療ができれば、それよりも1年は長く一緒に過ごすことができます。
ですから、思い当たる節もないのになんだかおかしいな?と思ったら、できるだけ早めに動物病院を受診しましょう。
悪性リンパ腫になってしまったら、抗がん剤を使った化学療法による治療を施していきます。また、化学療法とは別に放射線療法があり、こちらも悪性リンパ腫に対する感受性が高いとされているので、化学療法と合わせて行なわれる場合もあります。
ただし、悪性リンパ腫は、がんの発症地点を始まりとして全身に広がる疾患なので、完治をさせるための治療ではなく延命のための対処療法になります。
そのため、化学療法や放射線療法を行なってもがんの進行を完全に止めることはできず、少しずつ体を蝕んでいきます。
ですが、こうした抗がん剤を使った治療はただ延命をするためだけなのではなく、がんになってしまってからの余生をいかに快適に過ごさせてあげられるかの方法でもあるため、どうかそのことは忘れないでください。
悪性リンパ腫になってしまったラブラドールレトリバーの子は今までにたくさん見てきました。首や足の付け根にシコリができていることに気付き診察にくる方が多く、そうしたシコリの発見があった子は細胞診検査を行ない、その結果から悪性リンパ腫と診断・治療が始まります。
治療は化学療法から最初はスタートして、薬に対する反応やどの程度進行しているかによって、放射線療法も一緒に行なうことを提案させていただくことが多いです。
私が治療のお手伝いをさせてもらったラブラドールの子は、首にできたシコリから悪性リンパ腫と判明し、化学療法と放射線療法の両方からアプローチをかけて治療していきました。
幸い元気や食欲がないということはなく、腫瘍ができたという事実以外はとてもがんとは思えないほど元気いっぱいで、定期的に診察にくる時もいつも明るい姿を見せてくれていました。
ですが、やはり時間が過ぎるとともに少しずつ変化が出始め、ご飯も缶詰なら食べるけどドライフードは受け付けなくなったり、寝ていることが増え、悪性リンパ腫がわかってから1年過ぎた頃に、ゆっくりと眠りについたと飼い主さんからご連絡をいただきました。
「何もしていなければ一緒に年を越すこともできなかったけど、こうしてできる限りのことをしてあげることで、ほとんど苦しい思いをさせずに1年もの間過ごすことができました。」と言っていただけたとき、なんとも言えない気持ちでいっぱいでしたが、後悔のないように過ごすお手伝いができて本当によかったと感じました。
進行を止めることはできなくても、発見してからの対処の仕方次第で有意義とも言える時間を愛犬と過ごすことができるのは、大きな幸せではないかと私は思います。
遺伝的なものであって具体的な原因が解明されていないとはいえ、できるだけがんにならないように気を付けてあげたいですよね。
がんは大きな病気ではありますが、体の免疫力が高ければそれだけがん細胞をはねのける力は強くなりますし、元気に過ごすことができます。
そのため、食事もビタミンEなど抗酸化成分が豊富に含まれているものを意識したり、ブラッシングやお散歩など十分なスキンシップをとることで体に変化がないかをチェックするなど、できる限り質のいい生活をさせてあげながら、異常の早期発見に努めることが大事です。
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*このコラムは山之内さゆり先生に記事を作成して頂きました。
【山之内さゆり先生】
トリマー、動物看護士
約10年間動物病院でトリマー兼動物看護士として勤務。現場で得た知識と経験を情報として発信し、飼い主さんとペットが幸せに暮らせるためのお手伝いをしていきたいと思います。
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