獣医師執筆
森のいぬねこ病院グループ院長
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属
西原 克明(にしはら かつあき)先生
犬の骨肉腫は、骨に発生する悪性腫瘍(ガン)です。
犬の骨のガンは、骨肉腫の他にも繊維肉腫や軟骨肉腫、血管肉腫あるいは他の臓器からの転移ガンなどもみられますが、圧倒的に骨肉腫の発生が多く、骨のガンの代表的なものとして知られています。
また、多くの骨肉腫は前足や後ろ足といった四肢の骨にできるのですが、頭蓋骨や肋骨、背骨など、あらゆる骨に発生することもあります。
犬の骨肉腫は悪性腫瘍の中でも、痛みが非常に強いタイプであり、また転移も早いため、非常に印象の悪い腫瘍です。
骨肉腫のほとんどは大型犬にみられます。ただし、骨肉腫に特徴的な遺伝子変異は今のところ見つかっておらず、遺伝的な背景は不明です。とはいえ、大型犬と小型犬の骨肉腫のかかりやすさを比べると、大型犬の方が150倍のリスクがあると言われているため、何らかの遺伝的な要因はあるものと思われます。
明らかな原因はわかっていません。
しかし一部の文献では、大型犬の骨にわずかな傷が付くと、そこから骨肉腫が発生する可能性があるとする(仮説)ものもあります。
また、これは個人的な考えですが、犬はもともと中型犬ほどの大きさが祖先で、そこから人間の手によってプードルやボクサーといったいわゆる『犬種』が作られ、自然の進化とは異なる形で作られているということが、骨肉腫と大型犬との関係にヒントがあるのではと考えています。
つまり、自然の進化ではないため、いくら体格が大きくなっても、骨や関節は中型犬くらいを支える強度しかないので、大型犬は、骨や関節が自分の体重に耐えられず、常に強いダメージを受けてしまいます。
そしてそのダメージの蓄積が骨肉腫の発生原因の一つになっている可能性があるのではと考えています。
(どのような症状がありますか?動物病院を受診するポイント)
犬の骨肉腫はほとんどが大型犬にみられますが、その大型犬の骨肉腫のほとんどは、四肢の骨に発生します。
そのため、大型犬の骨肉腫の症状の多くでは『跛行(はこう)』、つまり足を痛がり地面に着かなくなる状態に陥ります。
また骨肉腫のみられる場所が腫れてきます。跛行や腫脹は、最初は軽いものであっても、骨肉腫の進行に伴って、どんどんと悪化します。
特に跛行が悪化すると、かなりの痛みを伴うようになり、犬が非常に神経質になり、飼い主の方が触れようとすると噛もうとしたりすることもあるため、注意が必要です。
もちろん、骨肉腫の発生初期は、わずかな跛行、あるいはちょっとした痛みしか見られないこともあります。
そのため、軽い症状でも、骨肉腫が気になる場合は、早めに受診し、レントゲン検査などを受けられることをお勧めします。
また、非常に稀ですが、頭蓋骨や顔面の骨、肋骨や背骨、骨盤などにも骨肉腫が発生することがあります。
頭蓋骨の骨肉腫では頭の変形や発作が見られることがあります。顔面の骨では、眼球が飛び出たような見た目になったり(眼球突出)、鼻腔に及ぶと鼻血や鼻水、肋骨では胸水(胸の中にお水が溜まること)による呼吸困難などが見られるようになります。
さらに背骨の骨肉腫では背骨の中にある脊髄神経もダメージを受けるため、手足の麻痺や下半身付随を認められることがあります。骨盤の骨肉腫では便秘や尿もれ、あるいは排尿ができないといった排尿困難がみられます。
もちろん、これら四肢以外に発生する骨肉腫でも重度の痛みを伴うことがあります。
そして、これらの骨肉腫でも、初期症状は他の病気との区別がつきません。やはり気になる場合は、あまり様子見せずに、早めに動物病院で検査を受けるようにしましょう。
犬の骨肉腫の余命は残念ながら良くありません。
転移するケースが多く、またその進行も早いため、積極的な治療を行っても1年を超えることはほとんどないようです。
文献的には、大型犬の四肢に発生した骨肉腫で、断脚術(腫瘍を足ごと切除する手術方法)を行った犬の平均的な余命は4ヶ月とされていますし、抗がん剤療法を併用したとしても、平均的には7ヶ月ほどと言われています。
また、四肢以外に発生した骨肉腫では、下顎骨の骨肉腫が比較的余命が長いと言われていますが、それ以外の骨肉腫はやはり余命はそれほど長くありません。ただし、大型犬の四肢の骨肉腫ほど、発生が多くないため、統計学的に具体的な期間を表すのは難しく、はっきりした余命の数値はありません。
また、四肢以外の骨肉腫は、場所的に完全に腫瘍を除去することが難しく(例えば、背骨の骨肉腫では、背骨を全部切除することができない)、それも余命を悪くしている要因と思われます。
なお、四肢以外の骨肉腫は、転移が少ないとする情報もありますが、それは四肢以外の骨肉腫の多くが、完全切除の治療を受けられずに安楽死となったケースがほとんどで、おそらく転移するまで生きることができなかったためと考えられます。
どのようにして治療しますか?手術、抗がん剤など
犬の骨肉腫の多くは転移する悪性腫瘍のため、完治させることは非常に難しい病気です。
骨肉腫の痛みは相当強いため、その痛みを緩和させるために手術を行うことがあります。
四肢の骨肉腫は、基本的には『断脚術』を行います。断脚術は腫瘍と一緒にその足も一緒に切除するものですが、足が一本なくなってしまうので、飼い主の方にとっては非常に見るのが辛い手術方法になります。
骨肉腫の骨への浸潤(木が根を伸ばすように、がん細胞が骨の広範囲に広がること)が非常に強いため、目に見える異常を切除するだけでは不十分で、どうしても広い範囲で骨を切除する必要があります。そうなると、骨を一部だけ保存することが不可能なため、結果的に足を切除することになります。
また、足の先端にできた骨肉腫であっても、足の根元から切除することもありますが、これは中途半端に足を残してしまうと、その足を使おうとしてしまい、褥瘡などの問題が起こる可能性がある場合、たとえ足の先端の腫瘍であっても、足を大きく切除することになります。
このように、見た目には非常に痛々しい手術ではありますが、これによって、転移による症状が出てくるまでは、痛みから解放されて、非常に楽に過ごすことができます。
また、骨肉腫の治療では、化学療法(抗がん剤療法)も併用されます。
抗がん剤を併用しても、やはり完治させることはできませんが、それでも文献的には数ヶ月の延命が期待できます。
もちろん抗がん剤による副作用のリスクもありますが、残念ながら骨肉腫は延命効果のある治療は、今のところ存在しませんので、少しでも手をかけてあげたい場合は、抗がん剤治療を考えてあげても良いかもしれません。
このように、犬の骨肉腫の治療は、延命というよりは、痛みなど辛い症状を取り除いてあげることをメインとしています。しかし、その中でも下顎に発生した骨肉腫は、1年生存率(骨肉腫が見つかってから、1年以上生存している割合)が、約70%と言われており、他の部位にできた骨肉腫に比べて、余命を長く過ごせる可能性があります。
当院では、骨肉腫が疑われる場合には、まず針生検(腫瘍が疑われる場所に注射針を刺し、その針から採取された細胞を検査して、腫瘍の有無を確認する検査)を実施します。
通常、皮膚や皮下組織にできた腫瘍に対しては、針生検だけで麻酔をかけることはほとんどありません。
しかし、骨肉腫の場合、骨に針を刺さなければならないので、検査だけなのにかなり強い痛みが生じます。ですのでほとんどの場合、全身麻酔を行なった上で検査を実施します。
そして針生検で骨肉腫が強く疑われる場合は、やはり断脚術などの切除を行います。
その後、飼い主の方と十分に相談をさせていただき、手術後の治療方針を決定します。
前述のとおり、抗がん剤療法でも数ヶ月の延命効果が得られるかどうかですので、当院では、そのメリットと、抗がん剤による副作用など、治療のデメリットを考慮し、さらには飼い主の方の考え方や生活状況を踏まえた上で、慎重に治療方針を決めるようにしています。
その中で、犬の骨肉腫は手術後、他に異常所見がなくても、いずれは転移を起こすことがほとんどです。
そのため当院では、医学的な根拠はまだまだ研究段階ですが、少しでも体の免疫機能を活性化するために、アガリクスなどのサプリメントを積極的にお勧めしています。
また、化学療法を行うときにこのようなサプリメントを併用すると、抗がん剤による副作用も軽減される印象があります。ただしこのような犬用のサプリメントは、その品質は本当に様々ですので、きちんとしたものを選んであげることが重要です。
また、背骨など切除することができない場所にできた骨肉腫の場合は、その痛みを和らげる治療が中心になります。ただし、骨肉腫の痛みはかなり強いため、モルヒネなどの強力な痛み止めが必要になります。
さらには、通院での移動なども負担となるため、在宅での治療を支援するための往診などで対応することもあります。
(普段からどんなことに注意して飼ったらいいですか?)
犬の骨肉腫は今のところ、はっきりとした発生要因は分かっていません。
しかし、これは個人的な考えですが、ほとんどが大型犬の四肢に発生することから、骨への過度の負担や慢性的な炎症などが関わっている可能性があります。
ですので日常生活の中で、これらに気をつけることで、少しでも骨肉腫の発生を抑えることができるのでは、と考えています。
つまりは、適切な運動管理、適切な栄養管理が重要です。
例えば運動管理では、過度の運動もダメだし、運動不足ももちろんダメです。
その犬に合った適切な運動を行い、骨や関節を守るための筋力を維持することが重要です。
一方栄養管理では、そういった筋肉を維持するために、適切な量のタンパク質を摂取すること、タンパク質の代謝に必要なビタミンやミネラルを適量摂取することが重要です。
さらには、慢性的な炎症を少しでも緩和するために、免疫調整機能のあるサプリメントや、不飽和脂肪酸など炎症を抑える効果のあるサプリメントなどを摂取することも有効なのでは、と考えています。
執筆者
西原 克明(にしはら かつあき)先生
森のいぬねこ病院グループ院長
帯広畜産大学 獣医学科卒業
略歴
北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。
所属学会
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会
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