獣医師執筆
森のいぬねこ病院グループ院長
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属
西原 克明(にしはら かつあき)先生
犬の肺がんは、大きく分けて、『原発性肺腫瘍』と『転移性肺腫瘍』に分けられます。原発性肺腫瘍というのは、肺自体から発生したガンのことで、腺癌、扁平上皮癌、気管支腺癌などを認め、そのほとんどが悪性腫瘍だと言われています。
しかし、原発性肺腫瘍は犬ではそこまで多くはなく、実は肺がんのほとんどが転移性肺腫瘍になります。転移性肺腫瘍は、私の経験上は『乳腺腫瘍(乳癌)』で最も多くみられますが、そのほかにも様々な悪性腫瘍によって引き起こされます。
犬の原発性肺腫瘍はあまり多くないため、罹りやすい犬種があるのかどうかは分かっていません。中にはボクサーに発生が多いのでは、とする文献もあります。もちろん、将来的に統計的な推察ができるようになれば、罹りやすい犬種がはっきりするかもしれません。
ただし、人間の肺がんは、遺伝だけでなく、環境(タバコやアスベストなど)も発症に大きく関わっていますので、犬の場合も犬種よりも環境の方が重要かもしれません。
転移性肺腫瘍は、様々な悪性腫瘍で見られますので、どの犬種でも起こりうる腫瘍です。
犬の原発性肺腫瘍の明らかな原因は分かっていません。人間と同じように、受動喫煙のリスクを指摘する声もありますが、確実に証明はされていません。また、化学物質の吸引などいわゆる『都市環境』の影響も考えられていますが、やはりこちらも明らかな証明はされていません。
これら原因となるものは、今後、がんが発生するメカニズムが解明される中で、ある程度はっきりしてくるものと思われます。
(どのような症状がありますか?動物病院を受診するポイント)
犬の肺がんの中でも、原発性肺腫瘍に罹った場合には、何の症状も示さないケースもあり、健診のレントゲン検査などで偶然発見されることが多いです。これは、気づかないうちに犬の肺がんが進行してしまう可能性があるため注意が必要です。そうならないためにも、特に高齢の犬は、胸部のレントゲン検査を含めた定期健診を受けるようにしましょう。
また一般的には、犬の肺がんでは慢性的な咳が多く見られますが、他にも食欲低下、体重減少、呼吸の異常などを認めることが多いです。このような症状は、他の呼吸器系の病気でも普通に見られる症状で、やはりこれらの症状だけで肺がんかどうかはわかりません。そのため、ちょっとした咳でも、それが結果的に肺腫瘍だったという可能性もあるため、高齢犬では、定期健診はもちろん、わずかな症状でもこまめに動物病院を受診することをお勧めします。
さらに肺がんが進行すると、嘔吐や喀血(咳をした時に血が混ざる)、チアノーゼ(舌の色が青紫になる)、発熱、さらには嚥下障害(食べ物をうまく飲み込めない)といった症状を認めることも多いです。
そして、原発性肺腫瘍の特徴的な症状の一つとして、稀ではありますが、『肥大性骨症』という症状があります。これは手足の骨に異常が生じるもので、跛行がみられるようになります。つまり、足を上げるようになったために動物病院を受診したところ、原因は肺腫瘍だった、ということが起こり得るのです。この肥大性骨症の明らかなメカニズムはわかっていませんが、肺腫瘍による炎症反応や肺組織の血流の変化、酸素摂取量の変化などが関係して発症すると考えられています。
このように、肺腫瘍は呼吸器症状だけでなく、全く別の症状を引き起こすことがあるため、やはり高齢犬でのちょっとした症状でも動物病院を受診し、さらに肺腫瘍を疑う場合は積極的に検査を受けることをお勧めします。
また、転移性の肺腫瘍の場合は、元々の腫瘍の種類によって様々な症状がみられます。
どのようにして治療しますか?手術、抗がん剤など
犬の肺がんの治療方法は、原発性肺腫瘍の場合は、外科的な切除、つまり手術が行われます。しかし、犬の原発性肺腫瘍の多くは悪性腫瘍のため、「肺がんの手術を行っても、転移などであまり余命は変わらないのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。ですが、これまでの犬の肺腫瘍を分析してみると、外科切除を行なった方が、圧倒的に余命が長くなっていることがわかっています。
これは、たとえ悪性腫瘍で転移のリスクが高くても、肺という酸素交換を行う重要な臓器から腫瘍を取り除くことで、生理学的に様々な有益な反応が得られる、つまりは体がグッと楽になるためだと思われます。ですので、原発性肺腫瘍の場合は、積極的な外科手術を選択します。
ただし、犬の肺の手術は、整形外科や腹部の手術と比べて呼吸管理などがより重要になるため、設備の整った動物病院で行う必要があります。また、手術後は呼吸器系の合併症がみられることも多く、呼吸器系の合併症は、直接命に関わる状態に陥ることも多いため、手術以上に術後の管理が重要になります。
そのほかの化学療法(抗がん剤療法)や放射線療法については、犬の肺がんではあまり文献がないため、明らかな効果は不明です。
また、肺のあちこちに腫瘍が発生しているケース(多発性の肺腫瘍)や、すでに転移しているような肺腫瘍では、手術ができないケースもあります。さらには、巨大化した肺腫瘍が癒着を起こすと、完全に腫瘍を取り除くことができなくなります。そうならないためにも、犬の肺がんは早期発見がより大切になります。
これまで当院で診察した犬の肺がんは、ほとんどが転移性肺腫瘍でした。そしてその多くが乳腺腫瘍からの転移でしたので、転移性の肺がんに対しては有効な治療方法はなく、外科切除や抗がん剤療法といった治療は行なっていません。
ただし、近年はこれまでよりも少ない量で使用する抗がん剤療法や、メトロノーム療法といった新しい化学療法を取り入れる動物病院も増えています。さらには研究レベルでは、分子標的薬によって肺転移を抑えられるケースも報告されていますので、今後はこういった治療方法を取り入れることで、転移性肺腫瘍の進行を抑えることができるようになるかもしれません。
一方、原発性肺腫瘍は、よほど進行しない限りは、外科手術を実施します。ただし、複数ヶ所に肺がんが発生している場合は、手術適応にならないこともあるため、手術にあたっては、事前にCT検査を実施し、詳細な状態を把握できるようにしています。ただし、犬の原発性肺腫瘍は非常に珍しい腫瘍で、当院では治療実績がほとんどないため、可能な方は日本獣医がん学会の認定医のいる大学病院を紹介することもあります。
また、犬の肺がん全般において、インターフェロンやアガリクスのような免疫力をアップさせるサプリメントは積極的に取り入れています。これらは、外科療法や化学療法、放射線療法と比べると、治療実績の判定が難しく、「本当に効いているのか?」は明確にされていません。
しかし、私個人の経験からは、これらを取り入れることで、犬の肺がんの進行をある程度抑えることができているのでは、と感じています。ですので、飼い主の方にはなるべく取り入れていただくようにお話ししています。ただし、特にサプリメントにおいては、犬用のものには粗悪な製品も多いため、必ず信頼のおける製品を使用していただくことが重要です。
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普段からどんなことに注意して飼ったらいいですか?
残念ながら、犬の肺がんを予防する方法ははっきりとわかっていません。しかし、犬の腫瘍全般に言えることとして、日常生活の中で目に見えない炎症をコントロールすることが、腫瘍の発生を予防するには重要です。ですので、犬にとって優しい生活環境、つまり食事や運動、飼い主の方とのコミュニケーションを良質なものにすることが、予防につながるかもしれません。
特に栄養に関して、ほとんどの方はドッグフードを使用されていると思います。ドッグフードはどんな高品質なものでも、加工品である以上、体に細かな炎症が起きやすいことがわかっています。そのため、ドッグフードだけでなく、アガリクスなど炎症をコントロールできるサプリメントを日常的に取り入れることは、非常に良いことだと思います。
また、犬の腫瘍の中でも、肺がんに関しては、飼い主の方の喫煙との関係が指摘されています。もちろん、「明らかに犬の肺がんリスクを高める」といった結論は出ていませんが、逆に受動喫煙を避けることでのデメリットは、基本的にはありません。ですので、少しでも犬の健康を維持したいと考える方には、禁煙もお勧めしています。
執筆者
西原 克明(にしはら かつあき)先生
森のいぬねこ病院グループ院長
帯広畜産大学 獣医学科卒業
略歴
北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。
所属学会
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会
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