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犬の皮膚腫瘍の原因、症状、治療法

獣医師執筆

犬困る

森のいぬねこ病院グループ院長

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属

西原 克明(にしはら かつあき)先生

犬の皮膚腫瘍ってどんな病気ですか?

犬、質問

犬の皮膚腫瘍は、厳密にはその名の通り、皮膚組織にできた腫瘍(*良性の腫瘍と悪性の腫瘍=がんのどちらも含みます)のことです。しかし実際の診察では、皮下組織(皮膚と筋肉の間にある組織)にできた腫瘍も、見た目には、皮膚が盛り上がった腫瘍のように見えるため、飼い主の方には、皮膚の腫瘍として認識されることがほとんどです。

 

ですのでここでは、皮膚腫瘍は、皮膚組織にできた腫瘍と皮下組織にできた腫瘍を含めて、『皮膚腫瘍』とします。

 

犬の皮膚腫瘍は、由来組織によって様々な種類があります。良性腫瘍と悪性腫瘍があることはもちろんですが、見た目には、ただの皮膚の膨らみにしか見えないものもあれば、自壊して炎症を起こすものもあります。さらには肥満細胞腫のように、刺激を与えることで腫れあがったり、吹き出物のように分泌物が出るような皮膚腫瘍もあります。

 

進行の速さも、何年もかけて徐々に大きくなるものもあれば、数日でどんどんと大きくなるタイプの皮膚腫瘍もあります。

また、悪性の皮膚腫瘍の中には、その他の臓器に遠隔転移を起こすものもあります。

 

犬の皮膚腫瘍に罹りやすい犬種を教えて下さい

多い犬種

皮膚腫瘍にかかりやすい犬種は、それぞれの皮膚腫瘍の種類によって変わります。

 

扁平上皮癌

犬の皮膚腫瘍で比較的よく見られる扁平上皮癌では、スコティッシュテリア、ペキニーズ、ボクサー、プードル、ダックスフントが知られています。

 

黒色腫(メラノーマ)

黒色腫(メラノーマ)は、ボストンテリア、ボクサー、チワワ、ドーベルマン、ゴールデンレトリバー、アイリッシュセッター、ミニチュアシュナウザーなど、多くの犬種が報告されています。

 

基底細胞腫

基底細胞腫と呼ばれる犬の皮膚腫瘍では、老齢のブルテリアやビションフリーゼ、シェルティ、シベリアンハスキー、コッカースパニエル

 

汗腺の腫瘍

汗腺(皮膚に存在する汗の分泌腺)の腫瘍では、ゴールデンレトリバー、ジャーマンシェパード、コリー、オールドイングリッシュシープドッグ、コッカースパニエルなどが知られています。

 

毛包上皮腫

毛包上皮腫では、バセットハウンド、ゴールデンレトリバー、ミニチュアシュナウザー、アイリッシュセッター、ジャーマンシャパードなどが好発すると考えられています。

 

ただし、犬の皮膚腫瘍を全てまとめると、様々な犬種で発生しますし、もちろん好発犬種以外でも見られることはあります。

そのため実際の診療では、どんな犬種でも皮膚腫瘍を疑う場合には、好発犬種にとらわれず、きちんとした診断を行う必要があると考えています。

 

例えば脂肪腫は、肥満のメス犬で多い、あるいはラブラドールレトリバー、ミニチュアシュナウザー、ダックスフントなどで多いという報告があります。

しかし実際の診療では、脂肪腫を病理組織診断(外科的な切除が必要な検査)せずに様子を見ることも多く、論文では報告されないケースも多いと思いため、実際には、どんな犬種でもそこそこ多く見られる皮膚腫瘍だろうと考えています。

 

犬の皮膚腫瘍の原因って何かありますか?

チェック法

犬の皮膚腫瘍の多くは、はっきりとした原因はわかっていません。しかし、中には皮膚の扁平上皮癌のように、強い日光を浴び続けることが腫瘍化する一つ要因となるような、原因がはっきりしたものもあります。

 

いわゆるイボのような見た目の乳頭腫は、パピローマウイルスというウイルスが関連していることがありますし、肛門の皮膚に発生する肛門周囲腺腫は、去勢していない雄犬で多く見られ、テストステロンと呼ばれる男性ホルモンが発症要因に大きく関わっていることがわかっています。

 

犬の皮膚腫瘍の症状、余命

(どのような症状がありますか?動物病院を受診するポイント)

犬の治療

犬の皮膚腫瘍は実に様々な病変があります。

 

一般的に、皮膚の下にある皮下組織にできた腫瘍の場合は、見た目上は異常所見が現れず、ただ膨らんでいるだけのこともあります。しかし、その腫瘍を触ってみると、脂肪腫では弾力がありますが、そのほかの腫瘍は硬くなっていることが多く、皮下腫瘍の中でも違いはあります。また、腫瘍によっては数日の間にもどんどんと大きくなるものもありますし、数年かけて徐々に大きくなる腫瘍もあります。

 

一方、皮膚に直接できた腫瘍では、膨らみに加えて、皮膚が赤く炎症を起こしていたり、あるいはジュクジュクとした湿疹状になっているものもあります。さらに自壊を起こしていたり、逆に一見ただの小さなイボにしか見えないようなものもあります。皮膚腫瘍の中でも黒色腫と呼ばれるものでは、そのほとんどが皮膚に色素沈着を起こしており、周りの皮膚組織よりも黒くなっていることがあります。

 

このように犬の皮膚腫瘍は、様々な皮膚症状が見られますが、残念ながら、どんな皮膚症状が、どんな皮膚腫瘍に当てはまるのかを、見た目で判断することはできません。さらには、皮膚腫瘍以外の病気(皮膚炎や皮膚の過形成など)との区別もつきにくいため、皮膚の病変は、見た目で判断することなく、きちんとした検査を受けて、診断をつけることをお勧めします。

 

また、悪性腫瘍の場合は、ほかの臓器に転移することもあるため、皮膚症状以外の症状が見られることもあります。

 

犬の皮膚腫瘍の余命は、やはり腫瘍の種類によって様々です。一般的に皮膚の病変だけで死に至ることは稀ですので、皮膚以外の悪性腫瘍に比べて、余命は長くなることが多いですが、やはり肺や肝臓など、生きていく上で重要な臓器に転移した場合には、余命はより厳しくなります。

 

また、皮膚腫瘍でも、外科手術による切除が難しい場合には、皮膚の腫瘍自体が炎症など、犬にとって辛い症状を引き起こすことがあります。その場合は、直接命に関わることはあまりありませんが、非常に辛い思いをさせてしまうため、安楽死を選択せざるを得ない状況になることもあります。

 

犬の皮膚腫瘍の治療法

(どのようにして治療しますか?手術、抗がん剤など)

犬の治療

犬の皮膚腫瘍の多くは、外科治療、つまり手術による切除が第一選択の治療になります。良性の皮膚腫瘍は完全に切除することで完治させることができます。悪性腫瘍の場合は、切除しても転移などの問題が残ってしまうのですが、それでも切除せずに腫瘍を残しておくと、炎症を起こして痛みが出たり、化膿したりして、生活の質がとても下がってしまうようになります。そのため、悪性腫瘍であっても、手術で切除することが大切になります。

 

しかし、手術が第一選択といっても、手術法の選択が非常に難しくなる皮膚腫瘍もあります。例えば、肥満細胞腫と言われる腫瘍は、炎症物質を大量に分泌し、手術時は腫瘍だけでなく、その周辺組織を含めて、大きく切除する必要があります。そのため、例えば顔面など、周辺組織の確保が難しい場所や、肛門や陰茎など、周辺組織を切除すると生命機能が著しく悪化してしまうような場所に腫瘍ができてしまうと、たとえ手術をしたとしても、腫瘍細胞を取り残してしまう、あるいは機能低下を招くなどの手術の代償が非常に大きくなる場合もあります。

 

また、同じ種類の腫瘍でも、対応が分かれるケースもあります。その一つとして、脂肪腫があります。脂肪腫は良性の腫瘍で、炎症を起こしたりすることも滅多にないので、手術をせずにそのまま経過観察することも多くあります。しかし、そんな脂肪腫の中でも浸潤性脂肪腫(筋間脂肪腫)は、注意が必要で、脂肪腫が筋肉の間に入り込むタイプの脂肪腫のため、それが動きの妨げになったり、あるいは痛みをもたらすこともあります。しかし、筋肉の間に入り込んだ脂肪腫は、手術で完全に取り除くことができないため、完治させることが難しく治療に非常に苦慮します。

 

また、手術が困難な皮膚腫瘍、あるいは手術で腫瘍細胞を完全切除が難しい腫瘍に対しては、放射線療法や抗がん剤療法を行うこともあります。

 

犬の皮膚腫瘍の治療例

犬の治療例

当院では、犬の皮膚腫瘍が疑われる場合は、まずはできる限りの検査を行い、注意深く診断を行います。そのために、発症時期や大きさの変化など、その腫瘍についての十分な情報をチェックすることはもちろん、それに加えて、細針吸引生検という検査を実施します。これは、腫瘍に針を刺して、その針に入ってくる細胞をチェックする検査です。この検査で、大まかに「腫瘍なのか、腫瘍でないのか」「腫瘍だった場合、どんな種類の腫瘍なのか、あるいは悪性なのか良性なのか」を確認します。

 

そして、その上で必要な手術計画を立て、切除を実施します。

その後、切除した腫瘍組織で病理検査を行います。病理検査によって、腫瘍の種類までほぼ確定させることができますし、また手術時の腫瘍細胞の取り残しがないかどうかをチェックすることができます。

 

切除した腫瘍が悪性だった場合や、完全切除ができなかった場合は、腫瘍の種類に合わせて放射線療法や抗がん剤療法を行いますが、放射線療法は当院では実施できませんので、大学病院などを紹介しています。

 

また、少しでも再発の可能性がある場合には、上記のような治療に加えて、アガリクスなど抗腫瘍効果を望めるサプリメントも積極的にお勧めしています。

 

犬の皮膚腫瘍 食事で注意することや予防法

(普段からどんなことに注意して飼ったらいいですか?)

予防法

犬の皮膚腫瘍を確実に予防できる方法は今のところ、見つかっていません。しかし、扁平上皮癌の要因となる日光角化症は、日頃から直射日光を避けることで、リスクを下げることができます。

 

また、これは個人的な考えですが、一般的に腫瘍は、慢性的な炎症によって発症リスクが高くなること、そして皮膚は、バリア機能に加えて排泄器官としての役割も持っていることを踏まえると、少しでも皮膚の負担になるような生活を改善することで、皮膚腫瘍のリスクを下げることができるかもしれません。

 

つまり、皮膚は食事中の栄養の約30%を利用すると言われていますので、良質な食事を摂ることが、皮膚腫瘍の予防につながる可能性があるのではと考えています。また、食事に加え、良質なサプリメントも、ドッグフードを利用している犬にとっては非常に大切です。特にアガリクスのような、免疫力を高めてくれるサプリメントは、皮膚のコンディションを整えてくれることも期待できますので、ぜひ日常生活に取り入れていただければと思います。

 

執筆者

西原先生

西原 克明(にしはら かつあき)先生

森のいぬねこ病院グループ院長

帯広畜産大学 獣医学科卒業

略歴

北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。

所属学会

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会

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著者⼀覧 Author

  • 森のいぬねこ病院グループ 院長

    西原克明先生

    獣医師

  • 増田国充先生

    増田国充先生

    獣医師

  • 大谷幸代先生

    愛玩動物飼養管理士

    青山ケンネルスクール認定A級トリマー

    メディカルトリマー

  • 山之内さゆり先生

    動物看護士・トリマー

  • 國澤莉沙先生

    愛玩動物飼養管理1級

    ホームドッグトレーナー1級

    小動物看護士他

  • 大柴淑子先生

    動物看護士(元)

    ペットアドバイザー