動物看護士執筆
公益財団法人 日本動物愛護協会
相談室長 動物看護師 大橋志保
今回は肝臓病についてです。肝臓は頑張り屋さんの臓器のため、なかなか症状を現しません。
危険な肝臓病もあれば、一時的な肝機能低下でそれほど心配の要らないケースもあります。
一時的な肝機能低下の多くは、投薬中の薬による副作用です。
この場合は薬物治療が終われば肝機能は回復してくるので、ほとんどの場合心配ありません。
肝臓はある程度のダメージならば自己修復してしまうタフな臓器です。
肝臓は1500種類もの機能を担うといわれ、栄養素の分解、合成、貯蓄を行ったり、体の中の毒素を分解して無毒化したりと様々なはたらきをします。
肝臓は機能的に予備能力(余力)が高く、再生能力の高い臓器です。
また肝臓には痛みなどを感じる神経がないため、私たちはもちろん、犬や猫も進行が悪化するまで症状が表面化することがないのです。
そのため、肝臓は「沈黙の臓器」と言われ、注意が必要です。
肝臓に炎症が起きたり、細胞が壊れたり、細胞に脂肪がたまりすぎるなどして、本来のはたらきができなくなることを肝臓病(肝疾患)といいます。
肝臓病は全身に障害が現れる病気です。
初期であれば無症状のこともありますが、食欲がなくなる、体重が落ちる、元気がなくなる、白目や歯茎が黄色になる(黄疸)、嘔吐する、多飲多尿、出血傾向などの症状が現れたら要注意です。
多くの場合、原因を特定することは困難です。
細菌やウイルスなどの感染や長年の負担、ほかの病気の影響や特定の犬種によくみられる遺伝性のもの、薬物、毒物、腫瘍や外傷なども原因になります。
また様々な原因が複合していることも考えられます。
□感染性のもの:ウイルス、細菌、真菌、原虫、寄生虫に感染することによって起こるもの
□慢性肝炎:原因不明なケースが多い(代謝性、感染性、中毒性、自己免疫性など)
□銅蓄積性肝臓病:銅が異常に体に蓄積してしまう遺伝性の病気
(べトリントンテリア、ウエストハイランドホワイトテリア、スカイテリアなど)
□中毒性肝炎:薬剤、毒物によって起こるもの
□腫瘍によるもの:ガンなどによって起こるもの
□門脈-体循環シャント(犬):先天的なものが多い
□肝リピドーシス(猫):過激なダイエット、ホルモンの異常など様々な原因で起こる
→ 猫は2~3日間食事をとらないだけで「猫肝リピドーシス」(脂肪肝)という生命を脅かす病気になることがあります。特に肥満の猫に発生しやすい病気で、肝臓の脂肪レベルが非常に高くなり、肝臓の処理能力を超えてしまう場合に発生します。この原因は十分に解明されていません。
猫の場合、何も食べないことが1日以上続いたら、無理に食事を与えたりせず、すぐに動物病院に相談しましょう。
肝臓病(肝疾患)は肝臓自体よりも他の病気が原因で起こるケースも多いため、まず原因となっている病気の治療が必要となります。
肝臓は他の臓器とは異なり、大きな予備能力を持ち、再生する能力も優れています。
有毒な要因が取り除かれれば適正な栄養管理によって回復することができます。
肝臓病になると吸収した栄養素をうまく利用できなくなるため、痩せてしまいます。
これを避けるために肝細胞の再生を助けるためのたんぱく質が必要となります。
しかし重度の肝臓病では、たんぱく質を代謝したときにでるアンモニアが解毒できなくなり、高アンモニア血症のリスクが高まります。
これを避けるにはたんぱく質の量を制限する必要があり、この2つを両立させなければいけません。
そのため肝臓病に用いられる食事療法食は、消化性の高いたんぱく質を用い、摂取量を適切に調整する必要があります。
※肝臓病用の療法食
肝臓に負担をかけないように、消化性のよい良質なたんぱく質を適正な量使用し、栄養素を調整しています。
1回の検査で肝臓の数値が悪くても、すべてが肝臓病というわけではありません。まずは動物病院で血液検査やエコー検査を受けて、肝臓がどのような状況なのか把握しましょう。
肝臓病は、毎日きちんとお世話をしていても、症状がかなり進行するまで気がつきにくい病気です。
肝臓病と診断されたとき、「もっと早く気づいてあげられたら…」と悔やむ飼い主さんも多いと思いますが、過ぎてしまったことよりも、これからどうすればいいのか、前向きな気持ちで治療について考えましょう。
どの疾患にも言えることですが、早期発見・早期治療、そして食事の管理が重要です。
*公益財団法人 日本動物愛護協会 相談室長 動物看護士 大橋志保先生 に記事を作成して頂きました。
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