獣医師執筆
森のいぬねこ病院グループ院長
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属
西原 克明(にしはら かつあき)先生
もともと砂漠で暮らしていたとされる猫は、やはり冬の寒さは苦手なようです。特に高齢になると、こたつの中や布団の中で、ほぼ一日過ごす猫もいるのではないでしょうか。
しかし、それではやはりいろいろな病気のリスクが出てきますので、飼い主の方の手で対策をしてあげましょう。ここでは、冬に目立つ「関節の病気」と「腎臓の病気」についてお伝えします
冬になると、猫の活動量が減ってしまいます。つまり、運動不足になってしまい、人間と同じように、肥満、筋肉量の低下などの問題が出てきます。これらは関節に大きな負担をかけるため、冬は特に関節のケアには注意をしてあげたいところです。
実は近年の研究では、高齢の猫の7割以上、特に11歳以上の猫では実に9割以上が関節に何かしらの問題を抱えていることがわかっています。しかし、残念なことにそのほとんどは飼い主の方が気づいていません。そのため、知らず知らずのうちに関節の病気が悪化していたり、あるいは冬の運動不足が、気づかないうちに関節により負担をかけているということになるのです。
そのため、たとえ見た目になんともなくても、高齢猫の場合は積極的な関節ケアは必要ですし、また若い猫でも関節を守るために、今から十分なケアを行ってあげることをお勧めします。
関節のケアといっても、実は特効薬的なものはありません。生活の中で様々なケアを取り入れて、総合的に対策していく(マルチモーダルケアと言います)必要があります。
まず、予防的な意味でも発症後のケア的な意味でも、最も重要なのが『体重管理』つまり『肥満予防』です。肥満予防は関節ケアの一番の土台となる部分で、これが上手くいっていないと、たとえどんなに優れた関節ケアを実施しても、なかなか効果を発揮してくれません。
もし今現在あなたの猫が肥満ならば、関節を守り、猫の健やかな生活を少しでも長く続けるためにも積極的な減量をお勧めします。
ただし、猫のような肉食動物の場合、単純なカロリーを減らすダイエットは、逆に筋肉量を減らし、関節に負担をかけることもありますので、必ず動物病院で相談しながら進めるようにしてください。
もちろん、すでに関節に異常がある猫では、運動によるダイエットも危険ですから、こちらも必ず動物病院を受診する必要があります。
また、体重管理に加えて、栄養管理も重要です。適切な筋肉量を維持するためのタンパク質やビタミン、ミネラルのバランスはもちろん、近年は炭水化物(糖類や食物繊維など)の種類によって、太りにくいキャットフードなども開発されていますので、あなたの猫にあったものをぜひ取り入れていただきたいです。
それに加えて、サプリメントも有効です。関節のケアとしては、コンドロイチンやグルコサミンなどが有名ですが、最近では、ω(オメガ)3やω6といった『不飽和脂肪酸』のサプリメントなども非常に役立つのでは、と考えられています。ただし、猫のサプリメントは粗悪なものも多いため、その選び方には十分な注意が必要です。
さらに関節のケアでもう一つ重要なのが『早期発見』です。関節は異常をきたすと基本的には元には戻りません。そのままいかに悪化させないかが、治療のポイントになります。ですので、発見が遅れれば遅れるほどケアにも限界がありますので、なるべく早い段階で発見するかが重要です。
そのためには、やはり定期的な動物病院での健診がお勧めです。関節の異常は、見た目や触っただけでわかることも多いですが、やはりより精度の高い検査といえば『レントゲン検査』になります。見た目にはなんの問題もないように見えても、レントゲン検査で異常が見つかれば、それだけ早く、猫にとって辛い思いをさせずに関節対策を始めることができます。
また、ご自宅での様子を見るときも、「痛がっている」「足を挙げている・引きずっている」以外の関節異常のシグナルを知ることで、早期発見に役立てることができます。
ご自宅で注意していただきたいシグナルが、『眠っている時間が増えた』『爪とぎをしなくなった』『高いところの上り下りをしなくなった』『ジャンプしなくなった』『お尻周りの肉付きが減った』というところです。
いずれも一見「年取ったからかなあ」と見逃されがちなのですが、これらのシグナルが実は猫の関節異常と関係していることが多く、積極的にケアすることで、表面に出てこない辛さを抑えてあげることができます。
このように、猫は私たちが考えている以上に、関節に問題を抱えています。ですので、特に冬の運動量が落ちる時期には積極的にケアしてあげるようにしてください。
高齢猫で特に多く見られる病気に『慢性腎臓病』があります。以前は慢性腎不全と呼ばれていましたが、現在では慢性腎臓病、あるいは慢性腎疾患という呼び方が一般的になっています。
この病気は、猫の腎臓が徐々に機能低下を起こすことで、様々な症状をもたらすものですが、実は冬場に悪化しやすい傾向があります。
腎臓の機能のうち、最も大切なものの一つに『尿を作る』ことがあります。つまり腎臓は、血液をろ過して、体に必要な栄養分や水分を再吸収したり、逆に不要なものを尿に排出する働きがあるのですが、猫の慢性腎臓病では、必要な栄養や水分までもが尿に出ていってしまいます。
そのため、慢性腎臓病の猫は薄い大量の尿をするようになり、その分体から水分が奪われてしまい、脱水を起こしやすくなります。
しかし、冬場は猫のお水を飲む量が減ってしまいます。そのため慢性腎臓病の猫は脱水症状を起こしやすくなり、慢性腎臓病の症状が悪化しやすいため注意が必要です。
慢性腎臓病の猫は、最初は水分がたくさん体から抜けてしまうことから、痩せたり、毛艶が落ちる、やたらお水を飲みたがる、そのような症状がみられます。さらに病気が進行すると、口内炎や口臭、嘔吐下痢、けいれん発作など『尿毒症』と呼ばれる症状がみられるようになります。
しかし、実はこれらの症状が認められた時点で、腎機能はすでに3/4以上を失っていると言われています。そのため、猫の慢性腎臓病では、症状が出てからの治療では対応が遅く、より早く発見することが重要になってきます。
猫の慢性腎臓病の早期発見で、重要なポイントは、日頃の様子観察(上記のような症状がないか、少しでも早く気づいてあげること)と定期的な尿検査です。また近年では、血液検査でもこれまでよりは早期に慢性腎疾患を発見できるようにもなってきていますので、どれかひとつ、と言うことではなく、総合的に判断することが重要です。
猫の慢性腎臓病の治療は、完治させる方法がなく、いかに腎臓を長持ちさせるか、そして体に老廃物を溜めないようにするかがポイントになります。
具体的には、点滴治療、療法食、内服薬、サプリメントを病気の状態によって組み合わせていきます。慢性腎臓病を早期発見できたとして、その初期であれば、専用の療法食や腎臓保護作用の期待できる血圧降下剤、あるいはリン吸着剤などのサプリメントを使用します。
それ以降、さらに病気が進行し、腎臓のろ過機能が不十分で、体に老廃物が溜まるようになってくると、点滴治療も行うようになります。
また、自宅でのケアで、療法食やサプリメントを与えるのと同じくらい重要なのが、「しっかりとお水を飲ませること」です。お水を飲むというのは、点滴治療と同じくらい効果があります。とはいえ猫にお水を飲ませようと思っても、なかなか難しいですよね。お水を飲ませるコツとしては、行動範囲の何箇所かにお水飲み場を作る、置き水だけでなく、蛇口からのお水など、いろんな飲み方ができるように工夫する、ウェットフードを利用する、などがお勧めです。
特にウェットフードは、同じ量のドライフードとお水を使うよりも、明らかに水分摂取には有効に働いてくれます。猫の慢性腎臓病の療法食でも、品質の高いウェットフードはたくさんありますから、そう言ったものを利用することをお勧めします。
冬になると、猫は、活動量が減少し、飲水量も減ってしまいます。その中で、肥満や関節、腎臓の問題が生じやすく、さらには尿石症や伝染性鼻気管炎といった伝染病も目立ちます。普段から、運動の工夫をしたり、お水をたくさん飲めるような工夫をし、さらにはちょっとした病気の兆候も見逃さないよう、生活の中で注意深く様子を見守ってあげたり、動物病院で定期健診を受けるようにしましょう。
執筆者
西原 克明(にしはら かつあき)先生
森のいぬねこ病院グループ院長
帯広畜産大学 獣医学科卒業
略歴
北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。
所属学会
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会
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